気になるなら椎名に今すぐ窓を開けて声を掛ければいいのに、なぜかじっと見ていることしかできない。

宮村に「早く帰れ」と言うだけでいい。
そうすれば、俺に逆らえるはずのない宮村は大人しく帰るだろう。


なのに。
ずっと窓の枠に頬杖をついて、じっと彼らを見ているだけだ。


ただ、ただ、椎名に向かって、こっちを見てほしいと念じるだけ。
いつからこんなに臆病になったのだろう。

父以外に怖いものなんてなくて、その他のこの屋敷にいるものは、みんな俺に媚びるだけの存在だと思っていたのに。


……あ。
宮村が花を指さして、椎名がそれに目線をやる。
椎名は何かを口にして、宮村はじっと椎名の顔を見ていた。


花の名前でも聞いたのかな。

“それはサルビアですよ“


椎名が初めて俺に発した言葉。

同じ言葉を宮村が聞いたのかと思うと、胸のあたりがもやもやでいっぱいになって、たまらなくなった。


心臓が痛い。
いつも椎名と一緒にいるときになる、あの嬉しい高揚ではない。


もっと心臓が千切れるような。
踏みつぶされるような痛み。


たまらなくなって、部屋から飛び出した。

メイドたちがびっくりするのもかまわず、次の授業の家庭教師が歩いてきたのにも関わらず。



「松本。今日の授業は明日に回して!」


マナー講師の松本に声を掛けながら、玄関を飛び出した。

庭を一目散に走る。
花のかぐわしい香りも今は堪能している余裕なんてない。


2人の姿を見つけて、足を止める。


椎名が先に気づいた。
俺を見て、驚いたように目を見開いてから、首を傾げた。


椎名の反応で宮村が振り返る。
小さく「……あ」と驚いた声を発した。
それから気まずそうに宮村が照れて笑う。


そんなことももうどうでもよかった。
宮村に構っている余裕なんてない。


俺はただただ、椎名だけを真っ向から見つめる。


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bkm
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