庭には色とりどりの花が咲く。
春にはリナリア、菜の花、ポピー、チューリップ。
夏にはひまわり、ブルーサルビア、あじさい。
春と夏の間には薔薇がいっぱいに咲く。
季節に合わせた花は、屋敷の周りを覆うように綺麗に咲き誇る。
この花たちが綺麗に手入れされていることが、西園寺家が栄えているという証になるのだそうだ。
花になんて何の興味もない父はそう言った。
俺はそうじゃなくて。
西園寺家が花によってどう思われるかなんてことはどうでもよくて、純粋に花というものに惹かれていた。
色とりどりに咲き誇り、それぞれが違う顔を持っている。
枯れかけの花など、この庭にはほとんどないけれど、そんな姿でさえ愛おしく思う。
……まぁ、そんな事を誰かに話したことはなかったけれど。
父に話したところで鼻で笑われるか、悪ければ叱られそうだ。
男が女みたいな趣味を持つな、なんて。
俺は10歳になり、色々な事を考えるようになったけど、普通の10歳とは違う暮らしをしている。
学校というものには行っていない。
毎日たくさんの家庭教師が俺の部屋を訪れて、俺に勉強を詰め込んでいく。
優秀な兄が2人もいる俺には、父の期待はあまりかかっていない。
そのせいで、俺が父と母に会うのも年に数回で、兄たちも気まぐれにしかこの本宅には帰ってこない。
学校にも行かず、家族にも会わず。
会うとすれば、仕事で来ている家庭教師と、仕事で来ているメイドや執事たち。
そんな暮らしはひどくつまらなくて、俺は気晴らしをするように部屋を出た。