「私は千紘さま以外の恋人を作る気はありません。他に好きな人もできません」
「そうなのか……?」
「普通、恋人は1人きりなのですよ。千紘さまも、……できれば私だけを恋人にしておいてくれないと困ります」
「分かった。お前だけだな。心から大事にするよ」
椎名の不機嫌を解消してやりたくて、素直な気持ちを告げると、椎名は俺の顔を見てからふいっと目を逸らした。
横に向けられた頬はほんの少し赤みがかっていて、照れているらしいことが分かった。
「千紘さまは、反則です」
「お前も俺の事大事にしろよ」
「はい、もちろん。私ができることがすべてさしあげます」
「うん。……椎名、キスしたい」
「……はい。私もしたいです」
食べかけのケーキを置いたまま、2人で小屋の中に入る。
メイドたちは小屋には来ない。
俺が庭にいる間は2人でいたいと言うと、誰も庭に訪れなくなった。
小屋に入って、扉と鍵を閉めると、すぐに椎名に抱き着いた。
椎名も抱きしめ返してくれる。
「椎名、……キスして」
胸の中に顔を埋めながら、椎名にねだる。
俺の身長は140センチしかないから、180の椎名とは40センチも差がある。
俺は椎名の胸にちょうど顔が来る感じで、そのままでは全然キスなんてできない。
椎名は俺の腰に手を入れて抱きかかえると、壁にそのまま押し付けられた。
脚は浮いている。
椎名が俺を抱っこしてくれているから落ちることはない。
ああ。これでようやく目線が一緒になった。