それを示すように、ここにティーセットを持ってくるメイドたちはいつも順番待ちだ。
全部椎名に会うために。
ふとあることが気になって、椎名の目を見る。
椎名は不思議そうに俺の顔を見返していて、その優しげな視線に胸が高鳴った。
「聞きたい事あるんだけど」
「はい、なんでしょう」
「俺とお前って恋人だろ?」
「はい」
椎名が微笑む。
いつもの優しいそれだけじゃなくて、ほんの少し甘さも含む笑みが1番好きだ。
メイドには見せない。
俺にだけ見せる顔。
こんな顔を見せられたら、誰だってこいつの事を好きになるだろう。
「お前は他に恋人いるのか」
「………はい?」
「お前くらい見た目がよければいくらでもできそうだからな」
褒めたつもりが目の前の椎名の表情は曇って行く。
むしろ不機嫌にさえなったようで、間違った事を言っただろうかと不安になってくる。
「千紘さまは、……私の他に恋人を作る気があるのですか」
「え、うーん、分かんない。好きになったのはお前が初めてだからな。他に好きな人とかできるかなぁ?」
椎名が口元を手の甲で隠して、ふぅっと大きくため息を吐いた。
何やら俺の言動は失敗しているらしく、椎名を不機嫌にさせている。
慌てて伺うように下から覗き込む。
いつもなら椎名はそんな俺を見て優しげに頭を撫でてくれるのだが、今日はじっと見たまま微動だにしない。
「椎名……? 怒ったのか」
「千紘さまはお勉強はできても、こういう事は学んでこなかったのですね」
どうやらけなされているということは分かる。
勉強は確かにできる。あれだけ優秀な家庭教師がついていれば当たり前だ。
勉強以外にもマナーや一般常識も習っているし、パーティーでの交流方法やダンスの仕方も習っている。
それでも俺にはまだ足りないのか?