「坊ちゃんを長い間連れまわしてしまいまして申し訳ございません」
「いえいえ、椎名さまとお話するのもいい事です。うちには若い男性はいませんから」
「ありがとうございます。少し坊ちゃんは冷えている様子ですので、温かくされてください」
「はい。椎名さま、また坊ちゃんをよろしくお願いします」
「こちらこそです。では、坊ちゃん失礼します」
安野と椎名の会話を聞きながら靴を脱いでいると、椎名が後ろから挨拶してきた。
振り返ると、丁寧に頭を下げている。
「うん。じゃあな」
手を振る。
椎名はそんな俺の姿を目に入れて、甘く微笑むと、優雅に去って行った。
本当にどこまでも綺麗な男だな。
「はぁ〜。坊ちゃんと椎名さまが並ぶとまるで絵の中から出てきたようでございますね」
「椎名だけだろ」
「そんな事ございませんよ。坊ちゃんは本当に美麗でいらっしゃいます」
「はいはい」
お世辞はもういいのに。
まぁ安野はこんなことをいつも言うからもう慣れたけど。
広い部屋で1人夕食を食べて、メイドに連れられて風呂に入る。
風呂から上がって、パジャマを着て出て行くと、メイドが待ち構えていて髪を2人がかりで乾かされた。
そのあとようやく部屋に戻ると、お昼間にもらったばかりのコスモスが可愛く咲いていた。
近づいて匂ってみる。
ふんわりと花の香りがする。
綺麗な白い花びんに活けられたそれをしばらく眺めてから、ベッドに入った。
今日出会った椎名を頭の中に浮かべる。
世界で1番綺麗な男。
優しく微笑む椎名が好きだ。
明日も会えるといい。
明日会えたらすぐ抱きしめてもらおう。
あいつの体温を感じたい。
そんな事を思いながら眠りについた。