「俺、帰るな」
「はい、玄関まで送りましょう」
「うん。その前にもう1回キスして」
椎名は俺の言葉に微笑みながら頷いて、俺の腰を両手で掴んだ。
ひょいっと抱えあげられて、椎名に軽々と抱っこされる。
「……もう赤ちゃんじゃないんだぞ。恥ずかしい」
照れた俺を誤魔化すように、椎名は唇を奪った。
「ん……っ」
優しいそれは、さっきみたいに舌が入ってくることはなかったけど、やっぱり心臓は熱くなった。
小屋を出て、暗くなった庭を抱っこされながら歩く。
お姫様みたいに抱っこされて、俺は椎名の首に腕を回していた。
「坊ちゃん、今日した事は内緒にしてもらっていいですか」
「誰にも?」
「はい。キスや治療の事など。坊ちゃんにそんな事をしたなんてバレると私はクビになってしまいます」
「それは困る。俺が会えなくなるからな。黙っておく」
「お願いします」
椎名の首に回した両腕に力を入れた。
かっこよくて、綺麗な椎名。
今日から俺の好きな人。
俺が大事にするもの。
「椎名、大事にしてやるからな」
「……え、あ、はい。坊ちゃん、そんな不意打ちで。照れます」
「そうか?」
椎名に玄関まで送られて、地面に下ろされる。
玄関の扉を開けると、安野が今にも玄関を出そうなところで鉢合わせになった。
「あら、坊ちゃん。長いお散歩でしたね」
「ああ、椎名と少し話をしててな」
安野は俺の後ろに椎名の姿を見つけると、中年の安野の顔に紅が差した。
あ。
安野もやっぱり椎名の事はかっこいいと思うのか。