椎名の顔を見上げてキッと睨みつけると、椎名がなぜかほんの少し綺麗な顔を赤らめていた。
「俺が病気で、お前はそんなに嬉しいのか。お前にプレゼントなんてして損した。帰る」
俺が踵を返すと、椎名が慌てて俺の腕を掴む。
その力は案外強くて、考えてみたら庭師は結構重労働だったことを思いだした。
そりゃあ筋肉もついているだろう。
また胸が勝手にトクンと跳ねた。
「違います。誤解です。坊ちゃんは私に、恋をしているのではないですか。うぬぼれていたらすみません」
「……恋? 普通は異性同士がするものだと、本で読んだが」
「はい。普通は。でも男同士でも不思議なことはないのです」
「ふうん、そうか。なら、俺はお前に恋してるっていうことか。ふうん」
なるほど。
それでこんな症状になるのか。
恋とは厄介なものだ。
今も椎名が掴んでいる腕のあたりが、焦げるように熱い。
「あの、私もずっと坊ちゃんが好きでした」
「え。でも話したのは今日が初めてだろ」
「はい。でも春に初めて見かけた時に好きになりました。その時も坊ちゃんは植物図鑑を持って、庭の花を熱心で見ておられて。それからも週に何度かは庭をこっそり歩かれているのを見てました」
「お前、見てたのかよ」
「はい、梅雨の頃には、かたつむりを見て喜んでらっしゃった。でも触るのは怖いのか、少し離れたところからじっと見てましたね」
かぁっと顔に熱がのぼる。
恥ずかしい。
睨みつけると、困ったように俺を見返して、椎名は笑った。
「すみません。庭を好きな坊ちゃんを見ているうちに、勝手に好きになってしまって。見ているだけでいいと思っていたんですが、でも坊ちゃんも私を好きなら我慢できません」
椎名は声を大きくしてそう言ったかと思うと、俺をいきなりぎゅっと抱きしめた。
抱きしめられたことなんて、物心ついてから一度もない。
人の温かさにびっくりして、でも心臓はやっぱりドキドキとする。
熱くて、でもたまらなく幸せだ。