「花びんに入れて、部屋に持ってきてくれるか?」
「…あ、はいっ!」
それから前田が入れてくれた小さな花びんにおさまった、控えめなコスモスをしばらく見ていた。
あいつ、俺を怒らせたと思って、花をプレゼントしてきたのか。
時間もそれほどあいてなかった。
すぐに考えてメイドに渡したのだろう。
俺に嫌われたくないのかな。
それとも、西園寺家に嫌われたくないだけかな。
そのうちに家庭教師が来て、勉強が始まってもちらちらとコスモスが気になって仕方がなかった。
今日の授業が一通り終了して、息をつく。
そこでふと気づいた。
……そうか。
今までたくさんお金のかかった贈り物はされたけど、もらった贈り物の中で1番これが嬉しい。
それに気付くと、いてもたってもいられなくなった。
お返しするものは何かないかと部屋中をぐるぐると探し回って、目当てのものを見つけて部屋を飛び出した。
階段を駆け下りて、庭へと行こうとすると、メイド長の安野が目ざとく俺を見つけて走ってくる。
「坊ちゃん、どこへ」
「庭! 庭行くだけ」
俺があまりに慌てているからか、それ以上安野は追いかけてこずに、納得したようだった。
まぁ正門のところには警備員も立っている。
勝手に外には出られるはずがないので、安野も庭への散歩くらいじゃうるさいことは言わない。
玄関を出て、広い庭を小走りする。
日が落ちそうな時間だ。もう帰ったかもしれない。
慌てて走っていると、庭の端の小さな小屋から男が出てきた。