伊澤といられるなら、ほんとうにどこだっていい。
ただただ近くにいたくて、いてほしい。


自分の家とは反対の道を、並んで歩く。
少し前まで、この道をおれはいつも暗い気分で歩いていた。伊澤の背中を眺めながら。
いまは、伊澤が隣にいる。あたたかい手を繋いで、歩いている。
もう少しだけ伊澤と一緒にいたくて、ついてきた。駅前で伊澤は「おれの家でもいいかな……」とめずらしく遠慮がちに聞いてきた。とくにためらいもせずに、おれは「うん」と答えた。伊澤が安心したように顔を綻ばせた。




伊澤の住むマンションに着く。
よくよく考えてみたら、ここに来るのは風邪を引いて倒れた日以来のことだった。
このあいだまで、この場所で、毎日、伊澤と繋がっていた。もうあのときとは違う。もう何ともない。いまは。

だけど、玄関口が開いて中に通されて、おれはやっと気がついた。
「……」
なぜか、緊張している。
指先の震えが止まらない。伊澤に気づかれたらどうしよう。またきっと、おれを心配したりする。かなしそうな目でおれのことを見たりするんだ。

「宮田?」
「!」
玄関先で立ち尽くしたままでいると、伊澤が「どうかした?」と声をかけてくる。

「なんでもないよ、…おじゃまします」

おれはちゃんと笑えていただろうか。



 

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