手のひらから伝わる体温が、とても心地良い。
いま、隣にいるのは、おれの愛してやまないひと。


学校の帰り道。
校門を出るとすぐにおれたちは手をつないで歩く。人目があるかどうかなんて、伊澤はまったく気にしていないようだった。
「見つかったら、みんなの伊澤じゃいられなくなるんじゃないか」とおれが心配したら、笑って言った。
「おれはだれのものでもないよ、宮田だけだから」
「……」
まっすぐに目を見て、そう言った伊澤に、おれはすぐに返事ができない。
嬉しいのに、うつむいて黙っていることしかできなかった。


「人との付き合い方ってよくわからないんだ」と、伊澤が言っていた。
教室では、いつもいろんな人に囲まれて楽しそうだなあなんて、おれは眺めていた。だけど、そうじゃなかった。

あれは本当のおれじゃない。
だれもおれのことなんか見てないよ。

こんな話しをするときの伊澤は、すこしだけさみしそうにも見えた。
だれにでもやさしくて、賢くて、人気があって。人を寄せ付ける王子様は、どうやら人間が苦手らしい。
じゃあ、いままでのあの行為は、もしかしたら彼なりの不器用な愛情表現だったのかなとか、自分でもよくわからないことを考えてみたりした。



「宮田、今日はもう帰る?」
「え?」

別れ際、改札の前で伊澤が唐突に言った。
一緒に帰るようになってから、しばらく経つ。手をつないで帰ることに慣れ始めて、伊澤ともようやく普通に話せるようになった。
いつもなら、駅に着くと、「また明日ね」とやさしく笑って帰るのに、今日は伊澤がおれの手を掴んだまま離れなかった。
「帰るけど……どうかした?」
「うーん、いや……」
「?」
珍しく歯切れが悪い。何だろうと思って、ぼうっと伊澤を見つめた。
改札の前で立ち止まっていたせいで、歩く人とぶつかりそうになる。伊澤がそれに気付くと、おれの手を引いて人通りの少ないほうへと移動した。
「大丈夫?」
「…うん」
教室で抱きしめてくれた日から、伊澤はびっくりするぐらいおれにやさしくなった。以前よりももっと。おれを見る眼差しが、あたたかくて、くすぐったくなってしまうほど。

 

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