週明けの月曜日は、いつも以上に気が重かった。珍しく相澤がひとりで教室にいた。
「田崎、おはよう」
「ああ、おはよう……」
いつもならもう少し明るく返せたが、今日はだめだった。相澤の顔をみても元気が戻らない。おかしい。
「な、なんか、元気ないな…田崎」
どうしたの?と心配そうに見つめてくる。これじゃあ、前とまるっきり立場が逆転している。こんなに暗い気分で相澤と話すのは初めてかもしれない。
「なんかあったの?」
「いや、何もないんだ。ほんとに」
あった。何かが起きまくっていた。
この休日のあいだに。まず、告白された。女ではなく、男に。それも友人。しかもたいして特別視していなかったやつから。
あのとき、おれはかつてないほどに動揺した。「とりあえず帰るわ」と一言だけ言って先に会計を済まして、その場をあとにした。ようするに、また倉科を放置してしまった。
あれから、倉科からは何の連絡もない。それが逆に不気味だった。こないだは、すぐに脅迫のメールが来たが今回はそれすらない。三日目の今日。会うのがおそろしく、今日は一歩も教室を出ていなかった。人にヘタレと言っておきながら、自分も大概情けないやつだった。

「陽向」
「あ、唯人」
教室の向こうから声がして、相澤が振り返った。彼氏のご登場だ。
「おい、陽向おまえまたこいつと…」
「え?いや、違うよ、田崎がなんか元気なくて心配だったから……」
そんなやつ放っとけ、と席につくおれを見下して言う。こいつは、本当に鬼畜な野郎だ。最低だ。相澤もこんなやつのどこがいいんだか。
「あーはいはい。邪魔者は消えますよ」
「あ、田崎、」
このまま見せつけられても気分が悪くなるだけだと思い、今日初めて教室を出た。トイレに行ってから、足が向いたのは2組の教室。ここ最近、三日以上会わないなんてことはざらにあった。何なら一週間ほど会っていなくて、久々に話したら、やけに心配されたなと思い出した。

教室には倉科がいた。よかった。ちゃんと登校している。
ひとりで窓の外を見てみたり、携帯電話をいじったり落ち着かない様子だった。ここからはよく見えないが、何となく目が腫れている気がする。
「……」
あのあと、帰って泣いたのかもしれない。おれに告白してきたとき、あれはとても冗談を言っているようにはみえなかった。真剣な表情で、でもどこか恥ずかしそうに。とにかく、いままでにみたことのない顔をしていた。それなのに、おれは返事もせずに、勝手に帰ったりしてしまった。
「……」
やばいな、と思う。このままだとやばい。確かに倉科は、おれの数少ない友人だった。おれは単独行動を好んでいたが、倉科といるのは、(面倒ではあるが)べつに悪い気はしていなかった。口調は偉そうだし、態度もでかい。だが、いつもおれのことを気にかけているということは、手に取るようにわかった。倉科は、俗にいうツンデレってやつだ。それも典型的な。
このままだと数少ないあの友人も、失う気がする。どのみちもう、友人には戻れない。残された選択肢は、あいつと恋人になるか、絶交か。二つにひとつ。

「……」

とりあえず、メールを送ってみた。
いま教室の前にいる、とだけ。
すぐに倉科が携帯電話をみる。メールを読んだのか、キョロキョロと廊下のほうに視線をやった。そして、おれを見つけるやいなや、たち上がって、急いでおれのもとまでやってきた。てっきりこないだみたいに怒って、メールも無視するかと思ったのに。


 

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