「……たっ、田崎っ」

放課後、2組の教室の前で、あいつが出てくるところを待ち伏せしていた。ホームルームが終わり、鞄を背負った倉科が教室から出てきた。おれを見つけるなり、まるで怪物でも現れたかのような目でこちらを見た。だが、すぐに逸らされた。
「な、な、なに…」
何か用なのか、と小声で言ってくる。
いつもおれを見つけたら、嬉しそうな顔で近寄ってくるくせに、今日は目も合わせてこない。わざわざおれのほうから迎えにきてやったというのに、「何か用か」と返ってきた。
(なんか、むかつくな……)
もともとかわいくないが、今日はさらにかわいくない。せっかく、ちゃんと話しをしようと思って、来たらこの態度。しかし、ここは我慢だ。
「もう帰るんだろ?」
「……」
「一緒に帰ろうぜ」
おれから誘うことなんて滅多になかった。倉科は、さぞかし喜ぶだろうと思って様子をうかがう。
「……な、なんで…」
「は?」
何で、とは何だ。
喜ぶどころか、挙動不審に目を泳がせている。
「おれといたって、た、楽しくないんだろっ…」
「……」
楽しくないとは言ったことはない。
面倒だと思っていたことはあったが。
「ひとりで帰るっ」
「お、おい倉科…っ」
あっという間におれの前からいなくなった。
慌てて追いかける。そこそこ運動ができる倉科は、走りも早かった。
「こらっ、倉科待てって!」
「来んな!ばか田崎っ!」
「っ」
こんなときまでかわいくない。
苛つくやつだ。


あともう少しで校門前というところでやっと追いついて、逃げる倉科の腕を取った。
「はあ、はあ……てめえ、何逃げてんだ」
思ったより低い声が出た。
久しぶりに全力で走ったせいで、呼吸が乱れていた。倉科はまだ「離せっ」とひたすら暴れていた。
「ちょっとこっち来い!」
「いやだっ!帰る!離せ!田崎のばか!」
(ばかばかうるっせえな……)
人気のないところに連れていこうとする最中にも、ずっとおれに暴言を吐いてくる。そんなに気が短いほうではなかったが、なぜか今日はキレそうになっていた。というか、もうキレていた。
「暴れんじゃねえ!」
「…っ!」
振り返って大声で怒鳴ったら、倉科がびくっと大袈裟に身体を震わせた。それから、怯えた目でおれを見た。
「……」
(……ったく…めんどくせえなあ、もう)

おとなしくなった倉科を引きずって、中庭のベンチに連れてきた。倉科を座らせて、おれもその隣りに腰掛ける。さっきまで騒いで暴れていたのに。おれが怒鳴ってから一言もしゃべらなくなっていた。
「……」
「……」
何かを言おうと思ってここまで連れてきたものの、いざ二人きりになると、言うべきことを忘れてしまっていた。
倉科は、怖いぐらいおとなしい。膝の上に置かれた両手で、制服のズボンを握りしめたまま、俯いて動かなかった。
(……ちっ)
横顔を盗み見たら、涙目になっていた。こんなに泣くやつだとは思わなかった。
「……っ、」
「倉科、」
「…っ…う、っ」
そうして、ズボンを握る手に水滴が落ちてきた。
こないだは、子どもみたいに泣きわめいていたのに、今日は、声を押し殺したように、小さく肩を震わせながら泣いていた。
「…っ…っ」
「……」
「…れ、のこと、っ…きらい、なんだろ…っ」



 

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