田崎くん、ほだされる。


「あいつのことが好きなの」と聞かれた。当たっている。その通りだ。
まさか、倉科に気付かれるとは思わなかった。
あいつはまた、泣きそうな顔をしていた。



倉科からの突然の告白から、約一週間が過ぎようとしていた。おれはまだ「嫌いじゃない」と曖昧な返事しかしていなかった。ほかに答えようがなかった。本気で好きか、と聞かれれば答えは怪しい。これまで何とも思っていなかったやつだ。確かに、変な目で見てしまうようにはなった。だが、それにはいつも相澤が絡んでいる。倉科と相澤が似ていると気づいてから、妙に意識してしまっていた。まだ、相澤のことは諦め切れていない。だけど、倉科のことも、どうでもいいと簡単に切り捨てられはしなかった。
「はあ……」
まったく、面倒なことになった。ひとりでため息をつく。だから嫌なんだ、人と関わるのも、人を好きになるのも。
「ほんと、最近どうしたの?」
田崎変だな、とまた相澤が心配していた。おれの顔を覗き込んでくる相澤。久しぶりにじっくりとその顔をみた。やっぱりかわいい。癒される。
「あいざわ……!」
「えっ、なに?」
目の前にあった相澤の手を握る。縋りつくふりをしたら、相澤がびっくりしたような声を上げた。こんなところをあの鬼にみられたら、きっと命はないだろう。ちょうど次の時間、2組は体育で、グラウンドに生徒が集まっている。あいつが来ることはない。
「なあ、相澤はあいつのどこがよかったの?」
「は、えっ、え?」
相澤が北谷とどういう関係にあるのかなんて、とっくに知っている。相澤は予想もしていなかったおれからの問いに、顔を真っ赤に染めた。かわいすぎる。
「ど、どこがって…唯人とは、っべつに、そういうんじゃ……」
これでは、あいつと付き合ってますと暴露しているようなものだ。本当に相澤は嘘がつけないかわいいやつだ。
「もう真っ赤になっちゃってー」
「うるさいなっ…そ、そういう田崎は、いないの、好きなひととか……」
「……」
急に話題が自分に回ってきて、思わず黙り込んだ。
おまえだよ、とはまさか言えない。じゃあほかにだれだ、と考えて、なぜか昨日の別れ際、泣きそうになっていた倉科のことを思い出した。
「……さあ、どうだろうな」
「なんだよ、それ」
相澤が納得いかないような声で言う。これが自分のものになってたら、いまごろこんな、余計なことで悩まなかったのかもしれない。残念ながら、それはもはや叶わぬ夢。あの恐ろしいやつと戦うほどの気力は、おれにはない。確実に負ける。じゃあ、あいつを身代わりにすればいいとも考えた。だけど、身代わりにするには少々重たい。何せ、一度真剣に告白されている相手。もともとあいつは気の強いやつだった。近頃は少し滅入っているみたいだが。弱った状態のあいつに付け入って「身代わりにならしてやる」とでも言ったら、どういう反応をするだろう。いまのあいつなら「うん」と素直に頷いたりしそうな気がした。
(はあ、何考えてんだかな…おれは)
窓の外を眺める。グラウンドには、準備運動をしている倉科らしき人物がいた。昨日もまた、帰って泣いただろうか。おれにほかに好きなやつがいると知って、どんな気持ちになったのだろう。
もう少し、あいつとちゃんと向き合うべきかもしれないと思い始めていた。

 

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