「……い、おい、倉科!」
「うわっ、え?」
何ぼーっとしてんだ、と田崎がいう。そうだった。いまは、学校の帰り道。珍しく考えごとばかりしていて、しゃべるのも忘れていた。
「おまえが黙ってると不気味なんだけど」
「う、うるさいな…おれだっていろいろあるんだよっ」
「へえ」
また田崎は、興味がなさそうにしていた。
映画を観に行った日、おれは勢いあまって田崎に「好きかもしれない」と爆弾発言をしてしまった。あんなことを言うつもりなんてまったくなかった。だけど、焦っていた。映画を見終わったあと、田崎はすぐに帰りたそうにしていた。まだ一緒にいたくてどうにか引き止めたくて、ファミレスに来た。そのときもずっとため息をついていた。悲しくなった。
(あいつと、あのぼーっとしたやつと一緒にいるときはあんなに笑ってるのに)
おれといるときは笑うどころか、ため息ばかりでいかにもつまらなさそうで。それならいっそ、好きだと言って驚かせてやろうと思った。そうすれば、もしかしたら振り向いてくれるかもしれない。だけど、違った。おれは本物の馬鹿野郎だった。田崎は、まるでとんでもないものを見るみたいな目でおれを見たあと、あっという間にファミレスからいなくなった。そして、何であんなこと言ってしまったんだろう、とひとりで猛烈に後悔した。
でも、冗談なんかじゃなかった。
田崎はかっこいいし、一緒にいて、何だか心地いい。
けど、そう思っているのは、おれだけみたいだ。
「じゃあな」
「……」
あっという間に駅についてしまった。
田崎は、この間おれが告白したことについて何も触れてこない。あんなに泣いたことも茶化してきたりしない。前と変わらない距離感で、田崎がどう思っているのか全然わからなかった。
「田崎」
「なんだよ?」
もっと、おれにも笑ってほしい。
そんなめんどくさそうな顔や、声じゃなくて、おれにももっと興味をもってほしかった。
おれのほうが、田崎のこと、いっぱい知ってるのに。何であんなやつの前でばっかり楽しそうにして。
「……あ、あいつのこと好きなの」
気になって仕方なかった。
もしかして、とずっと思っていた。
田崎は、おれが聞いた瞬間、わずかに顔色を変えた。
「……あいつって?」
「あの、ちっさいやつ。ぼーっとしてる。おまえとおんなじクラスの」
「ああ……」
返事を待ったが、それ以上田崎が何も答えてくれなかった。だから、きっとおれの勘は当たっているんだ。あの日、おれが告白をしたあと、慌てて帰っていったのはあいつのことが好きだからなんだ。おれじゃなくて、あいつが。
「……」
「倉科?」
「帰る」
「え?おい、」
また、泣いてしまいそうだった。
こんな人通りの多い駅前で、泣いたりしたら何事かと思われる。
もういやだ。田崎なんか。田崎のことなんか嫌いだ。嫌いに、なれたらいいのに。
そのまま帰ったけど、田崎は追いかけてきてはくれなかった。



 

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