瀬戸くん、壮絶の半生。



おれの人生は、クソだ。


幼いころ、母親が再婚した相手の連れ子(ようするに義兄)は、ただの変態だった。

夜な夜なおれの部屋に忍び込んでは、「かわいい、かわいい」と気持ち悪い声で囁き、身体をまさぐってくる。
まだガキだったおれは、何もできなかった。これが良いことなのか、悪いことなのか。その区別さえつかない。ただ、人には言えないってことだけはなぜかわかっていた。

初体験は、男相手だった。
中一のころ。それもあの変態と。

おれが抵抗しないのをいいことに、変態は調子に乗って、ついに本番行為まで実行した。痛くて、死にそうだった。
情けなくて、泣けてくる。
苦痛に耐えるおれを見て、変態はとても楽しそうな顔して言った。

「もっと気持ちよくしてあげるよ……瑞樹」

何でおれはあんなやつの好きにされてばかりいるんだ。
ああそうか、おれが弱いからだ。
弱いから、だめなんだ。
強くならなきゃいけない。だれからの攻撃も、跳ね返すことができるように。


吹っ切れたように、毎日暴れた。
学校のものを壊し、人を殴り、いじめた。母親はそんなおれを見て、泣いたりした。いつだって泣きたいのはおれのほうだった。おまえらが助けてくれないから、こうなったのに。ぜんぶ、ぜんぶおまえらのせいだ。
暴れても暴れても、変態からの要求は収まらない。それどころか「悪い子にはお仕置きだ」とか、頭のおかしいことを口走りながら、おれを犯しつづけた。

少年院にでも入れば、家に帰らなくて済むと思って、万引きを繰り返した。
結局いつも、親が示談で済ませて、おれの作戦は上手くいかなかった。

ほんとうに、なんにも上手くいかない。
みんな、死んだらいいのに。
あの変態も、親も。
そして、弱い自分も。


高校を卒業したあと、おれはすぐに家を飛び出した。もちろんだれにも言わずに。
生活していくために、いろんな仕事をしたけど、どれも長くは続かなかった。
借りたアパートの家賃が支払えなくなって、追い出されかけるころ。ふらふらとあてもなく夜の街を歩いていたら、だれかにぶつかった。ぶつかった相手が悪すぎた。

喧嘩で勝てるような相手じゃなくて、あっという間に気絶させられた。目を覚ますと、事務所みたいなところに転がされていた。派手なスーツを着た男が数人。ここがどんな場所なのか、聞かなくてもわかった。逃げようとしたけど、当然無理だった。

「男のわりには小綺麗なツラしてんじゃねえか」と、掠れた声で言う。一緒だ。あの変態と、同じ目つきをしてる。

そのあとは、散々だった。
数人いた男全員のものを受け入れさせられた。終わるころには意識が完全にシャットダウン。

次に目覚めたとき。おれは何もかも奪われて寒空の下に放置されていた。
とにかく逃げないと、と思って、ふらつく身体を無理やり起こし、歩いた。できる限り遠くまで。いま自分がどこにいるのかさえわからなかった。人のいない公園が見えて、すこし休憩しようとベンチに座ったのが最後。

ようやく意識が戻ったあと、自分の身に起きたのは、また地獄。もう、ほんとうに死にたくなる。なんで、あそこで力尽きてしまったのか。全力で後悔した。

「おまえのこと、ずっと見てたんだよ」

おれはおまえなんか知らない。
覚えてるわけない。
高校なんて、ほとんど行ってない。
クラスメイトの名前も顔も、知らないまま卒業した。
こいつもどうせ、変態兄貴と一緒だろうと、もうほとんど諦めに近い気持ち。


けれど、なぜかおれを見る目が、ほかのやつらとは違う気がした。

それはおれの勘違いだと思うことにした。だって、こいつは間違いなく変態で、おれを陥れることしか頭にない最低の人間。

なのに、ときどき、おれを気遣うみたいなことをする。不気味でしかたなかった。ただやりたいだけなら、もっと好き勝手すればいいのに。

散々なことをしたあとは、必ずといっていいほどやさしい声と手が待っていた。
おれはこれに、いつも感情を揺さぶられる。他人なんて、信じない。自分以外の人間は、皆、おれに害しか与えてこない。

じゃあ、でも、これは。
これはいったい何だ。

気持ち悪い。知りたくない。
触りたくない。
おれに触れるな、離れろ。
どっか行け。

やさしいあいつ、気持ち悪いあいつ。
おれのなかに生じた、奇妙な矛盾。

ベッドのなか、自分とは違う体温を感じて、気が変になりそうだった。


(……おれ、いま、安心してる)


あいつが連れてきた見知らぬ男たちは、手加減なくおれを犯した。

三人の変態たちにのしかかられながらおれは、早く帰ってきてくれと、心のなかでみっともなく願ってしまった。何度も。
気を失って、声がして、姿が見えて。帰ってきてくれてよかったと、思ってしまった。どうしよう。どうすればいい。


こんなにたやすく他人に、心を許そうとしている自分。恐ろしくてたまらなかった。


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