とりあえず輪姦。



久しぶりに、高校時代の友人たちに連絡を取ってみた。
皆、それなりに暇してるようで、返事はすぐに来た。「また集まろうぜ」みたいなノリになって、おれはひとり別の理由で心を弾ませる。

近々会う予定のこの仲間たちに、おれの宝物を見せびらかしてやろうと思う。



「瀬戸?あー、だれだっけ?」

あの最強の一匹狼で有名の、と説明すると一斉に「ああ!あれか!」と声が上がった。

「で、そいつがどうしたんだよ」
「いや、こないだ偶然会ってさあ……、」


いま面倒見てる。ついでに、あいつ、実はすげえ淫乱なホモで、毎晩おねだりされてもう大変。
おまえら、溜まってんなら、うち来てちょっと遊ぶとかどうかな。


女より断然イイよ、とここまで言って、場の空気が断然色めき立つ。
あの不良が淫乱だなんて、こいつらには十分、興味をそそる話題だろう。
というわけで、おれのもくろみ通り、後日、自宅での輪姦大会の開催が決定した。ちなみに、瀬戸には当日まで、秘密にしてようと思う。
おれ以外にやられて、瀬戸はどんな反応をしてくれるだろう。突っ込んでもらえるならだれでもいいとか、思い始めたら、どうしようか。それはそれで、おれの立場が危うくなるな。
わくわくしたり、慌てたりしながら、瀬戸の待つ自宅へと急いだ。


「ただいま〜」

返ってこないのはわかっていながらも、とりあえず声をかける。やはり、反応はなかった。
部屋に上がると、拘束グッズで不自由になった瀬戸がお出迎え。


あの、激しいセックスの翌日。
「もう逃げないからこれ外せ」と瀬戸が抗議してきた。逃げないのは良いことだけど、ほんとうかどうか、いまいち信用できない。だいたい、まだ目がおれを舐めきってる気がする。
「あと三日はこのままだよ」と、きっぱり言い放った。瀬戸は悔しそうに舌打ちする。その態度が気に入らないと感じたおれは、次の日、首輪につけられるリードを買ってきた。おれが外出するときは、このリードをトイレのドアノブに頑丈に括りつける。手はもちろん塞がっているし、これで絶対逃げられない。

生意気な態度はなかなか改善せず、瀬戸への暴力の回数が減らない。身体を開かせたあとは、脅しに従って素直になるけど、ほかは全然だった。睨むし、口は悪い。飴と鞭がいいだろうかと、ときどきやさしくしてやっても、効果なし。


そして、三日経っても、瀬戸の態度に納得いかず、拘束は無期限で延長。

風呂と、食事の時間以外はずっと手錠。
首輪は常時。服は気が向いたときだけ貸した。部屋に二人でいるあいだ、瀬戸はときおり、じっと自分の両手首を眺めることがあった。その横顔はすっかり弱りきっている。もう威勢よく「外せ!」なんて怒鳴ることもなくなった。

そういえば、おれが押し倒しても、前ほど暴れない。嫌そうな顔をするにはするが抵抗しても無駄だとわかったのか、無表情で、されるがまま。
これはなんか違う。おれが見たいのはこんなんじゃない。もっと、わかりやすい瀬戸じゃなきゃだめだ。全然萌えない。

苦痛に慣れきった瀬戸には、新たな刺激が必要なんだ。
だからきっと、あのサプライズは瀬戸にとって、最高で最悪の刺激になるはずだ。



瀬戸と、相変わらず無言で夕飯を食べている最中だった。部屋に来客の知らせが鳴り響く。

「はーい」

そう。今日は例の約束の日。ほぼ時間通りにやってきて、思わず笑いが込み上げる。よほど、やりたいんだなあいつら。
玄関を開けると、そこにはこのあいだ久々に再会した高校時代の連れ、三人。
一気に部屋が騒がしくなって、何事かと瀬戸が顔を上げた。


「おじゃましまーす!」
「ああ、そうだ。瀬戸、おれのこと覚えてなかったから、たぶんおまえらも記憶にないと思うよ」
「は、まじか!まあしょうがねえよな、ほとんど学校来てなかったし。やあ、瀬戸くん久しぶり〜。陽太との生活はどう?」

「うわまじで瀬戸だ!」とか「何か首輪ついてるんだけど!」とか口々に言う。
瀬戸は食べかけの弁当を前に、割り箸を握ったまま、何も言わない。

「なあ、おまえホモで淫乱ってまじ?」

友人のひとりが、唐突に聞いた。
瀬戸がわずかに表情を変える。ここ最近、毎日見てきたおれにしかわからない程度の変化。
答えるわけもなく、すぐに視線を逸らして、何もなかったかのように白飯を口へと運ぶ。

「うわっ、シカトだし!なにこれ、陽太こんなやつとよく生活してんな!」
「ははは。違うって、瀬戸はほら、人見知りするだけだから。な?」

なるべくやさしく肩を抱く。
瀬戸は飯を食べるのをやめない。
いつもと違う部屋の雰囲気に戸惑っているのが、手に取るようにわかった。

「それ食ってからでいいからさ、今日はちょっと、こいつらとみんなで遊ぼうか」
「……!」

ようやく、いまのこの状況を全部把握できたらしい瀬戸が、小刻みに震え始める。そうだ、これだ。この反応。やっぱり瀬戸はこうでなくっちゃな。

「そんなんあとで食えよ、さっさとやろーぜ!」
「ああでもおれ男相手に勃つかなあ」
「おれもそれ心配。でも面白そうだしいいんじゃね?」

「だな!」と、盛り上がる三人衆。
おれの腕のなかで、ひそかに青ざめる瀬戸。いまからそんなかわいい反応してどうするんだよ。これからもっとひどいことが起きるのに。


結局おれが買ってきてやった、コンビニ弁当を、瀬戸は完食できなかった。



「は、離せ!離せよっ、触んじゃねえっ…っ!んのクソやろ、…っ!」

おれの寝室は今夜限定で、楽しい輪姦部屋と化す。いつものようにベッドに縫い付けられて、瀬戸が叫ぶ。三人の男に寄ってたかって押さえつけられて、身動きもとれないようだ。近頃おれとするときは、借りてきた猫さながらにおとなしかったから、こんなに暴れる瀬戸を久々に見た。

「うおっ!…っぶね!おい、陽太、こいつめっちゃ暴れんだけど」
「ああ、最初だけだよ。ちょっと殴ったら大人しくなるし」

ベッドから少し離れた場所で、見物することにしたおれ。
瀬戸攻略のアドバイス。調子に乗った友人が「じゃあ遠慮なく」と、瀬戸の顔面に、一発グーパンチをお見舞い。おれだけじゃなくて、ほかのやつにまで手加減なしで殴られて、気の毒すぎる瀬戸。「うっ、」と、痛みに耐え切れず漏れた声は、興奮した三人によってかき消されてしまう。
珍しく着用していた服が、あっけなく破かれる。「くそっ」と悔しそうに零す。まだ諦めていない様子の瀬戸が、反撃とばかりに相手に殴りかかる。
真正面に乗りかかった友人が、瀬戸の抵抗をもろに食らってしまう。敵がひるんだ隙を狙ってベッドから飛び出した。

「ってえな!てめえ、何すんだよ!」
「…っ、」
「あ、逃げた」

寝室の出入り口は当然ひとつしかない。
瀬戸が必死で逃げた先には、おれがいる。焦りすぎて前が見えてなかったのか、勢いよく、おれの胸のなかに瀬戸が飛び込んできた。

「おっと、」
「……ってめえ、ほんとに最低だ…っ」

そんなに背の高くない瀬戸は、おれを見上げながら、可愛げのない言葉を浴びせてくる。
おれたちの後ろから野次が飛ぶ。「逃げんなー!」「早くやらせろ淫乱」と。
瀬戸はこの部屋から逃げたくてたまらないらしいが、いま逃がしたらおれの計画が台無しだ。可哀想だが、仕方ない。我慢してね、瀬戸。

「瀬戸、あいつら悪いやつじゃないから、ちゃんと気持ちよくしてくれるよ。な?だから大人しくしてて」
「ふざけんな!何であんなやつらと…っ」
「終わったらあとでご褒美あげるから」

しつこく抵抗する瀬戸。宥めても無駄なので、身体を担いでベッドに強制連行。再開される、三人からの暴行。もう絶対逃げられないように、ボコボコに殴られていた。
しばらくしたら、声がしなくなっていた。痣だらけの身体を好き勝手に触られる。

「う、…っ、……」
「色白えなあ。つか、瀬戸ってこんなんだったっけ。なんかピクピクしてかわいいんだけど」
「これでチンコついてなかったらよかったよなあ」

ぎゃはは、と下品な声。
ちっ。おれの瀬戸の可愛さに気付きやがったか。悔しいな。

「陽太はー?混じんねえの?」

細く長い脚を強引に掴み広げながら、友人がおれのほうを振り向く。
急所を握られ、身体を撫で回される瀬戸。三人のあいだから、心底嫌そうに顔を歪める姿が見えた。

「今日はいい。いつでもやれるし」
「はは、じゃあ今日は四人で楽しもうなー瀬戸くん!」

三人いても、突っ込める穴は女と違ってひとつしかない。必然的に、口も使われるはめになる。

「んっ、んぐ、っう!ぅう…っ」

相手のペースで、口を犯され、ぶっかけられて、さっそく精液まみれにされる瀬戸。咳き込んで息が整うより先に、次のモノがくる。上のお口が攻撃を受けているうちに、そろそろ下の口への攻撃も始まってしまう。

「ああ、なあ。いいもんあるよ。使う?」

おれは思い出したように、ベッドのそばにある棚をあけて、そこからあのピンクのローションを取り出した。
「これかけてやったら瀬戸が喜ぶよ」と手渡すと、三人の熱が一気に上昇。遠慮もなにもあったもんじゃない。ドバドバと尻にかけて、あっという間に、何本かの指がぶち込まれた。
こいつら、さっきまで「男でいけるかなあ」とか心配してたくせに。ケツに指突っ込むのは何てことないのか。よくわからない。まあそこに穴があればやりたいお年頃なのか。それにしてはもう、おれたちはあまり若くないと思う。

忘れていたが、あのローションはたしか媚薬入りなんだった。
どうりで、あれだけ嫌がってた瀬戸がいま、なんかもういやらしい声とか出し始めてる。それはおれの指でも、チンコでもないのに!腹立つなあ。
と思ったら、空腹が襲ってきた。そういえば、おれもさっきの弁当、全部食っていなかった。今日おれは完全に見物客になりきる予定で、とてつもなく暇していた。いまのこの様子を何枚か写真に収めてから、コンビニに行くことにしよう。

「おれちょっと、出かけてくるわ。瀬戸、頑張るんだよ」

たぶんもう何も聞こえていないだろう瀬戸を励まして、家を出る。
寝室をあとにしようとした、まさにその瞬間。「やあぁっ!」と悲鳴に似た甲高い声がして、思わず振り返った。

二人がかりで身体を固定されながら、友人のぺニスに貫かれる瀬戸が、泣き叫ぶ声だった。



外はすこし肌寒かった。
星とか出てて、びっくりするくらいに快晴。雲ひとつなく、真っ暗。
こんなふうにじっと空を眺めるのは、いったいいつぶりなんだろう。おれはいつも上も前も向いてないなあ、と気づく。
でもそんなことは、もうどうでもいい。

通い慣れた近所のコンビニに着く。
久々に酒が飲みたい気分になって、缶ビールを二本、買い物かごに投げ入れる。
甘いお菓子と、それから最近お気に入りのパン。「終わったらご褒美あげる」と宣言したから、瀬戸にもおみやげを買って帰ることにした。値の張る、高級アイス。何味が好きなのかわからなくて、無難にバニラ。こんなもの自分にですら滅多に買わない。おれってほんとに親切。

アイスを手にしてみて、ふと気づいた。
そういえば、おれはまだ瀬戸のことを何も知らない。


(瀬戸、大丈夫かなあ)

コンビニを出て適当にぶらぶらしながら、わざと時間をかけて家路につく。
もう友人たちを家に呼んでから、数時間。おれが帰るころには、あいつら飽きて帰ってたらいいけどな。
本気か見せかけか、自分でもわからない心配をしつつ、自宅マンションに到着。鍵を開け、玄関に入ると、そこにはまだ見慣れない靴が置かれてあった。

「……」
(まだ帰ってなかった)

まあ、そりゃそうか。
なぜかげんなりした気分で部屋に上がると、奥の寝室からはあいつらの声。

「ただいまー」
「あっ、陽太、」

寝室を覗く。ベッドにはうつ伏せで、倒れる瀬戸。それを取り囲むように友人三人。一人がおれに気づくと、ばつが悪そうにこう言った。

「なんか、やりすぎた…?っぽい……さっきから動かねえんだよ」
「おまえが『二輪刺し試そうぜ!』とか言って無茶すっからだろー」
「おれのせいかよ!」

なんかとんでもない内容で揉めている。
何だ、二輪刺しって。
コンビニの袋を足元に置いて、瀬戸のそばに駆け寄る。かろうじて息はしてる。
けど、顔色がない。青いとか、白いとかそんなの通り越して。

「で、二本ぶち込んだら気失ったって?」

瀬戸の顔を見ながら聞くと、妙に低い声になった。焦った友人が「いや、やってない、未遂だよ未遂」と言い訳した。
やろうとして、泣いて痛がって、また殴って、もう一回やろうとしたら、今度は静かになって、失神してた。らしい。


「うーん……さすがにそれは追加料金発生するよなあ。いくら払ってくれる?」
「ゲッ!金取んの?」
「だって、おれの大事な瀬戸、死にかけてんだよ?ああ、かわいそ」
「えええ……」

大事な人間をこんな目にあわせた張本人は、まぎれもなくおれだ。瀬戸の言うように、最低だ。最低最悪。でもぐったり横たわる瀬戸をみたら、やっぱり格別にかわいいと思ってしまう。ほんとうに救いようがない。
「まあ今回は大目に見てやる」と言ったら、全員が安堵した。心が広いおれ。
とにかく今夜の輪姦大会はこれでお開き。

「また、よかったらやらしてよ」と懲りない奴が、帰り際に言ってきた。そんなに瀬戸の名器が気に入ったか。
「また」が来るのは、おれの気分次第。適当に受け流して、奴らを帰す。いつものふたりの部屋に戻った。

冷蔵庫にアイスとビールを入れてから、瀬戸の様子を見にいく。動かない身体を、仰向けに倒すとひどい状態になっていた。

「あいつら……」

いくらなんでも好き勝手しすぎだ馬鹿。もういない奴らに、心のなかで怒る。
おれだってまだ、こんなにぶっかけたことないぞっていうくらい、顔も身体もめちゃくちゃだった。三人分の精液全部を浴びたように。乾いたものと、生々しいものが入り混じって、カピカピのベタベタ。顔には、いつも通りに殴られた痕。血と精液が混じって変な色の体液が付着してる。

このままでは、さすがに可哀想で、瀬戸をお姫様だっこして、浴室に連れていく。シャワーを捻って、お湯をかけてやると、すぐに瀬戸が目を覚ました。

「っ、…!」

おれの存在を認識するやいなや、見たこともないような怯えた表情をした。
タイルに後ろ手をつき、見上げてくる。シャワーを浴びせられながら、声も出さずに涙した。どうにもたまらない気持ちがして、瀬戸の前にしゃがみ込む。
手で涙を拭い、固まった精液と、血を洗い流してやる。全身を綺麗にして、拭いて、服まで着せてあげた。
約一週間、ずっと肌身離さず付けさせていた、首輪をようやく外す。きつく縛っていたからか首には痣ができていた。

この一連のあいだ、瀬戸は一言も声を発さなかった。ただ壊れた蛇口みたいに、ずっと涙を流すだけだった。


「あいつらならもう帰ったよ。今日はよくがんばったね。えらいえらい」

小さい子でも褒めるみたいに、頭を撫でた。まだ、身体が震えている。これはきっと寒さからではない。
こんなになった瀬戸をみても、おれは正直、ちっとも後悔していなかった。普通なら好きなやつをここまで泣かせたら、ものすごい勢いで反省するんだろう。土下座とかするほどに。
どうやら、おれには「普通」が欠落しているらしかった。瀬戸と再会してから、自分のいろんな内面を思い知らされる。
だっていま、目の前にいる、泣いてる瀬戸がめちゃくちゃかわいくってしかたない。抱きしめてキスしてやりたいくらいに。

「疲れたでしょ。今日は一緒に寝よう」

最近は瀬戸を固い床の上でばかり寝かせていたが、今日ばかりはベッドでゆっくりと眠らせてあげようと思う。
汚れたシーツを取り替えてから瀬戸と一緒に寝転がる。
いまだに涙が止まらない様子の瀬戸を、抱き枕みたいにして抱きしめた。思ったよりあたたかい身体だ。だけど、とても痩せている。飯ならちゃんと与えてるのになあ。

「おやすみ、瀬戸」

ぐすっ、とおれの腕のなかで、鼻を啜る。泣き疲れたのか、すぐに小さな寝息が聞こえた。


(明日から、手錠と首輪、つけるのやめてあげようかな)


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