恋人みたいな。



瀬戸を自宅に監禁し始めてから、一ヶ月が経過した。
おれのしつけの甲斐あってか、瀬戸は徐々に心を開いてくれている(と、前向きに捉えることにした)。

おれもおれで、初めのころは暴力によるスパルタ教育しか繰り返さなかったものの、ここ最近では、結構普通に接するようになった。
セックスも、なんだかんだで毎日してたけど、瀬戸がすこしつらそうな日はキスだけでやめたりする。おれの行動の変化に、どうやら瀬戸は戸惑っているみたいだ。




あれは二、三日前。
その日の夜も相変わらずだった。風呂上がりの瀬戸に、突発的に欲情してしまい、ベッドイン。着たばかりの服を剥がされて、怯え始める瀬戸。ここまではいつも通り。
「もうしないって言ったのに……」というなんとも悲しそうな瀬戸の声に、おれは一時停止した。

その日はほぼ一日中やっていた。やろうと試みた。
せっかく買った拘束グッズのなかで、いまだ未使用だった縄とその他もろもろを使ってみたくて、起きてすぐ、瀬戸を縛った。といっても、おれはSMプレイのスペシャリストでもなんでもないので、難しい縛り方は断念。とにかく「縄で拘束されてるエロい瀬戸」が見たい一心で挑戦した。
そのあいだ、瀬戸は「うう、」とか、「痛い…」とか小声で呟いていた。が、抵抗したら殴られることを知っているので、一度も暴れなかった。ようやく学習能力が身についたらしい。

「縄食い込んでてめちゃくちゃエロい!やっぱり瀬戸最高だよ」
「……」

ネクタイで縛ったときよりも、断然興奮する。ふくらはぎと大腿を曲げた状態で固定。上半身も、乳首が見えるか見えないかのギリギリの位置でぐるぐる巻きにした。身動きとれない瀬戸。顔を真っ赤にして、羞恥に耐える。

さらにおれが取り出したのは、大人の玩具。いかにも凶暴そうなバイブ。
試しに電源を入れて動かしてみたら、思った以上の派手な音に振動。
「おお、すげえ」とおれが感想をもらす下で、ぶるぶると震える身体。


「…ぃ、いやだ…っ…」

さっきまで黙っていた瀬戸が、抗議の声をあげた。極太バイブに、怖気づいた模様。

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと慣らしてから入れるから」
「っ、そんなの入るわけねえ…」
「やってみなきゃわかんないでしょー」

ずいぶん怖がっているようなので、普段より多めにローションを使うことにする(ちなみにこれは二本目のローション)。
とろとろと、瀬戸に身体に流す。冷たさにまだ慣れない瀬戸が、強く目をつぶってやり過ごす。
日々の特訓のおかげで、瀬戸の尻穴は、指二本くらいなら余裕で初めから入るようになった。遠慮なく、深々と指を挿入してかき回す。

「う、ぅ、っあ…っ、ん、…ぅう…」

瀬戸は快感に弱く、こうして中を刺激すればいとも簡単にぐずぐずになってくれる。

「やらしい顔してんなあ。まだ指なんだけど」
「…っ、う、…っ」
「はは、顔真っ赤。超かわいい」

からかうように笑うと、恥ずかしさに耐え切れなくなった瀬戸が、目を潤ませる。
ちょうどいい具合に中が解れたころ、すでに瀬戸のペニスは立派に勃起していた。

「もう準備万端みたいだから、コレ、試してみようか」

濡れた穴から指を引き抜く。ローションがまるで愛液のようになって、瀬戸の尻穴からいやらしくしたたっている。
バイブも十分に濡らしたあと、先端を、そこに押し付ける。

「や、っ!あ…っ、ぁ、や、やめ…っ、やめろよっ、入んねえって言っ、…てっんだろ!」
「こら、暴れないの」
「い…っやだっ、!や、……っ!」

往生際が悪いので、久々の平手打ちをくらわせる。不意に手を上げられて、固まる瀬戸。

「暴れたら余計痛い目みるよ。わかってるよね」
「……っ…」

顎を掴んで、悪い子の瀬戸にお説教タイム。我慢しきれなかった涙が頬を伝う。
瀬戸、わかってると思うけど、おれに泣き落としは通用しないんだよ。

「ちょっと力抜いてじっとしてたらいいだけなんだからさ、できるだろ?」

瀬戸はえらい子だもんね、と追い打ちをかける。がたがたと震えながら瀬戸が口を開いた。

「……っ、で…で、も……」
「……でも?なに?」

「できます」とか宣言してくれるのかと期待したら違った。まだ抵抗する気なのか。いい加減面倒だから、このままぶち込んでやろうかな。ぐり、とバイブを押し付ける力を強めてみる。

瀬戸が、しゃくりあげる声がした。


「…っ、っっ、う、…っ、く、っ」
「……」
(えええーー)


いやいやいや。
ちょっと待って。
このタイミングで号泣はおかしいだろ。おれまだ何もしてないんだけど。

いつもなら、突っ込んでしばらくしてから、ぐずぐずと泣き出した。でもそれは気持ちよくてたまらないからで、決して痛みによるものではない。
こんな段階で大泣きされるなんて思ってもいなくて、おれまであせる。


「ちょ…瀬戸、どうしたの」

手にしていたバイブを一旦置いて、しばしお楽しみの中断。瀬戸が全然泣き止まない。

「う、っ…ぅ、……」

瀬戸が泣いてる、かわいい、とかいつもなら思ってた。思うところだった。
けど、今日の泣き方は、そういうのじゃない。だいたいもう何度も、殴られて犯されまくってるくせに、いまさら何であんな玩具ごときで泣くのかもわからない。

「……」
(はあ……)

すっかり気持ちが萎えてしまった。
瀬戸とやってる最中に萎えるなんて初めてだ。
これ以上できないと判断して、身体を拘束していた縄を解いてやる。白い肌に、締めつけた痕。

「っ、…っ……」

身体が解放されるとすぐ、おれから顔を隠すように丸くなった。骨張った肩が上下してる。
あんまりにも泣き止まないので、そろそろ心配になってくる。瀬戸が怖がらないように、やさしい手つきで身体をこちらに向けさせた。

「どうしたんだよ……、そんなに怖かった?」
「…っ…」
「どっか痛い?」
「……っ、」
「じゃあなに?なにが嫌だったの?」

自分では、至極普通に聞いているつもりだった。けど、いま瀬戸は弱ってて、おれのこの声が責めているようにしか聞こえなくて余計に怖がらせてしまったらしい。嗚咽が収まらずに、いつまでもぐすぐすと泣きつづけた。


気分の萎えたおれがとった行動は、暴力でも放置でもなかった。

「……」
「…っう、……」


一緒に横になり、瀬戸の泣き顔を眺めながら、背中をさする。ほんとうにこれで泣き止んでくれるかどうかはわからないが、おれの精一杯のやさしさ。あと、謝罪のつもり。泣き落としは通用しなかったんじゃなかったのか、おれ。
そして、ふと思い出した。たしか、友人たちを呼びつけて、瀬戸を襲わせた日もこんなふうに抱きしめた。いまみたいに腕のなかで、いつまでも涙する瀬戸を。

「……」

おれはあの日、一部始終を見ていなかったから、瀬戸が何をされたのかは正確には知らない。ただ、口を犯され下を蹂躙された、くらいのことしか把握してなかった。二輪がどうとか言ってたが、もしかするとあれが原因かもしれない。

「なんか、こわいこと、思い出しちゃった?」

刺々しい声にならないように、注意を払いつつ、問う。
しばらくして、瀬戸がかすかに頭を上下に揺らした。

「……そっか。ごめんね、大丈夫だよ。今日はもうしないから」

おれの声に、ようやく落ち着きを取り戻し始めた。
「もうしない」という言葉を信用しきったらしく、瀬戸はそのまま、おれの腕のなかで眠った。



……と、こんなことが昼間にあったにもかかわらず、おれは懲りなかった。
自分の発言への責任を放棄し、夜になればまたいつものように瀬戸に襲いかかる始末。そりゃあ、悲しそうな目でおれを見たりするだろう。滅多にしない反省をして、瀬戸に謝った。
脱がせた服を元に戻して、布団を被せる。そばにいると絶対手を出してしまうから、今夜は瀬戸にベッドを譲ってやろうと思う。

「じゃあね、おやすみ瀬戸」

たまにはソファで寝るのも悪くない。
瀬戸が、どこか戸惑ったような顔をしていたけど、あんまり見ないでドアを締めた。



この三日間。瀬戸とは繋がっていない。
それどころか、一緒にも寝ていない。
ちなみにベッドはまだ瀬戸に譲ってる。
夜になると、幼い子を寝かしつけるみたいにベッドに入らせる。瀬戸は困ったようにおれを見上げた。
何か言いたそうな表情をしているなあと気がついてはいたが、おれから聞くことはしなかった。

昼に起きて、飯を食べてテレビを見て。
それから風呂に入ってまた眠る。
まるで普通の同居生活みたいだった。


「瀬戸、今日はなに食いたい?」
「……なんでも」
「それが一番困るんだよなあ。なんかないの、好きな食いもんとか」
「……」

すこし考えたあと「じゃあ作ってほしい」と返ってきた。

「え、なにを?」
「……こないだのでも、なんでもいい。コンビニのばっかり、体に良くないだろ……」
「……」

遠慮がちに瀬戸が言った。
もっともだ。瀬戸の言うとおりだと思う。おれはこのままいくと確実に早死する。それくらい栄養偏ってる。
おれのこと、心配してくれてるんだ!と感動したおれは、今日はコンビニではなくスーパーに買い物に行くことに決めた。それからもうひとつ、いま決めたことがある。

「ねえ瀬戸、一緒に買い物行こうよ」
「え」

弾かれたように目の前の顔が上がる。
拘束することはなくなってからも、瀬戸には留守番ばかりさせていた。
せっかくの機会だし、一緒に出かけてみたい気分だ。

「全然外出てないしさ、息抜きになるよ。あ、でも逃げるのはだめだよ」
「……」

すかさず釘を刺しておく。
ちょっと心配だから、手錠で繋いでおこうかどうか迷ったけど、職務質問されたりしたら困るのでやめた。


瀬戸と買い物デートなんて、不思議だ。
でも、こういうのは、なんだか恋人同士みたいで悪くない。


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