彼が居る風景も、随分普通になったものだと思う。たまに来て、寝転んで、だらだら。何があったとかじゃなくて何も無いから。いつもたわいもない話をしておしまいだった。なのにいつからか、それは当たり前みたいに繰り返される。ごく、自然に。
 
「のう、柳生」
 
例のごとく人のベッドへと勝手に体を投げ出していた彼が言う。わざわざ名前を呼ぶなんて、改まったその姿勢が気にかかった。だからちょっとだけ背筋を伸ばして体ごと彼を向けば、手招きで呼ばれる。体を起こして座り直した自分の、横に来いって。そんな彼の突然の要望なんて聞いてあげる理由が無かった。でも、聞いてあげない理由も無かった。だから、結局、隣。肩を並べるようにして座れば彼は満足げに微笑んだ。そしてことんと頭を預ける。
 
「不思議じゃのう。始まりなんて見えなかったのに、終わりはもうしっかりと見えてるんじゃ。」
 
何がですか。そう尋ねさせてはくれない。なんとなく、そういう空気だった。でも尋ねなくったって彼の言わんとすることは分かっているのだから、その必要は本当は無かったのだ。むしろ、分かっているから、何も言えない。気の利いた言葉一つ思い浮かばず、口を閉じたままでいたら彼は笑った。悲しそうに、笑った。
 
「そろそろ帰るかのう。」
「……明日も、いらっしゃいますか?」
「明日のことは分からんよ。」
 
立ち上がって笑ってみせる。そこには先ほどまでの悲しみなんて映ってなくて、だからこそぎゅっとどこか胸の奥が締め付けられた。ああ、ここでぎゅっと。出来たらそれが、正解なのだろうか。思うがままに、彼を想うがままに。抱き締めて唇を塞いで、それから、それから。そこまで考えて、それらを振り払うように一瞬小さく目を閉じた。そして言葉にしたのは、送ります、なんて。
 
「……女の子じゃなか」
「そんなの、関係ありませんよ。」
 
急な発言にはちょっとだけ眉を寄せる。けれども続ければ、安心したみたいに笑った。安心したみたいに、笑うから。泣きたくなるのはどうしてかこちらの方だった。ああ、なんて中途半端な存在なのだろうか。欲しいとわめけるほどに子供ではないし、簡単に諦められるほどに大人ではない。隣を歩くあなたの手さえ握れない。そんな事実に泣きたくなった。
 
 
 
 
 
モラトリアム
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
お互いに想ってるのにどちらも自分なりの理由があって動けない感じ。
 
110626




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