「思い出は、置いていけないもんね」
 
ロッカーを片付けながら、彼は不意にそう口にした。一瞬、独り言を疑う。しかしすぐにそうでは無いのだと気付く。その証拠に、彼は振り返って柔らかく笑った。だから、思うのは、珍しいなって。普段俺と彼が二人切りになることは、殆ど無いと言っても良い。別に避けているとか、嫌だとか、そんなつもりはないけれど。しかし二人切りになることを意図して努めたことが無かったのも、また事実だった。今日だって、俺が部室で寝ていて、目が覚めたら彼がいた。そんな不本意な二人切り。
 
「全部持って行かなきゃいけないね」
「ロッカーの中身?」
「……うん、そうだね」
 
分かってて、はぐらかす。だから、ずるい人。そう思うのは、きっとお互い様だった。大事なところを明確にせず、受け取る側の選択に委ねる。なんて、そんな、言葉。分かっているから、だからからこそ、望まない選択をする。ごめんね、俺ってそういう奴なんだ。
 
「思い出、ね」
「そう、思い出。」
 
呆れた溜め息混じりで俺が口にした言葉は、そっと肯定される。やっぱり、そういうことなんだ。まだ続くのに、続けられるのに、その選択を彼は消す。何となくではあったけど、彼がきっとそうするであろうことは分かっていた。だから驚きなんてしない。けれども、そうやって形にしてこなかったくせにどうして今、こうやって。それを思うともやもや、ちくちく。ああ、だから俺は彼を、好きにはなれないんだ。
 
じゃあ、お先に。ぱたんとロッカーの扉を閉めた彼は、荷物を肩に掛け俺に笑顔を向ける。じゃあね、じゃなくて、さよなら。最後に口にするのは後者であって、それが最後だって信じている。なんて勝手な推測に過ぎないけれど、残念ながら嫌いにだってなれないのが事実だったから。
 
「たまには一緒に帰ろーよ」
 
そうやって、口にする。そうやって、口にしたら彼は珍しく驚きを露わにした。しかしそれは一瞬で、すぐにくすくすと小さな笑いに変わったのだけど。でもさ、好きじゃないけど、嫌いじゃないから。しょうがないじゃん。
 
「寂しいの?」
「寂しいよ」
 
からかうように口にされた言葉に、すねたみたいに返す。すると、また彼は笑うから。あ、その顔。それは好きかも、しれない。なんて思って俺も笑った。夢なんか見て馬鹿みたいって思われるかもしれないけれど、きっと俺たちはそれぐらいが丁度良い。だから、じゃあね、またねって。明日に続く約束を、何度だって繰り返す。
 
 
 
 
 
 
さよならなんて言わせない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
二人ともあまり腹の内を明かさないと言うか本音は口には出さないイメージ。
 
120226




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