誕生日おめでとう、なんて。もう四月も終わると言う今に送られてきたメール。それに俺は頭を抱える。これは彼なりのボケなのか。それとも今日が俺の誕生日だとでも本当に思っているのだろうか。去年は部のみんなで祝ってくれたと言うのに。どちらにせよ、理解は出来なかった。しかし向こうからこちらにコンタクトをとってくるのは珍しいことである。だから、慌ててコール。繋がれ、って切に。
 
「早かね」
「遅いわ、あほ」
 
第一声がそれって。なんて彼は笑う。その笑い声は俺が知ってる彼と何も変わってなんかなくて、無性に泣きたくなった。彼が熊本に戻ってまだ一カ月しか経っていない。しかしそれでも、もう一カ月なのだ。その間彼と俺は一度も電話なんてしなかった。メールも、手紙も、何もかも。彼がそうしないから、俺もそうしない。意地を張っていた訳ではないけれど、彼にとっての俺はその程度の存在なのだと諦めていたのかもしれない。だからこうして繋がった電話に、彼の声に、無性に。
 
「本当はね、」
 
最近どうなん、なんて会わなかった期間のお互いを話した。所謂世間話。そんな中でいきなり違う口調になる彼に、ちょっとだけどきり。しかし「ちゃんと一番にお祝いしたかった、ばってん、一番早くは誰かさんの専売特許かなって」なんて。続けられた言葉には、思わず緩んだ笑い声が漏れた。なんやそれ。そんなん気にしてたんか、って。確かに今年も一番は、お決まりの彼だった。親友の彼だった。けれども、違うのに。違うって思うのは、俺だけなのか。そう思うと笑い声は別のものに変わる。
 
特別だった。彼も俺を特別だって言った。だからそうだって思っていた。なのに、結局違ったのだ。感情なんて比べるものではないって言われるかもしれないが、どうしても違う。重きが違う。だから彼がそうであるなら、俺もそうあらなければいけない。そうでなければこれは、ただの負担になるのだ。そう思えばもう、そうとしか思えなかった。
 
だから、ごめんって、小さな謝罪と共に電話を切る。もう、耐えられなかったのだ。ぽろぽろ、ぽろぽろ。溢れ出す涙には気付かれたくなかったから。繋がらないそれは投げ捨てて、膝に顔を埋めるようにして零す。やっぱり、重いなあって。そんな自分を笑ってやりたくなっても、簡単に笑えるほどに俺は強くない。だから、ひとり、ぽろぽろ。言い訳をする気力も、開いたドアを閉める気力も、今の俺には無かった。
 
「話は最後までちゃんと聞きなっせ」
 
なのに、なのに。急に聞こえた彼の声に、俺は慌てて顔を上げることになる。なんで、どうして。彼の声が直接、隣から、聞こえるなんて。意味が分からなかった。繋がっていたはずのそれはもう、確かに切ったのに。
驚きからか思わず止まった涙に、彼は笑う。優しく、微笑んだ。ちゃんと会ってお祝いしたかった。けれども今日までどうしても来る予定が立てられなかったって。
 
「なんやそれ、聞いとらん」
「言ったらサプライズにならんね」
 
未だ状況が把握出来ずに居る俺の頭に彼はそっと手のひらを乗せる。喜ばせるつもりで来たのに泣かせてごめんって。切なそうにそう言うから、ああそんなに変わらないものなのかもしれないって感じて、やっと、笑えた。そんな俺を見て彼も安心したように笑うから。ぎゅっと。絶対許さへんって、言えば彼は頷く。許してくれるまで離さないなんて臭い台詞に、ときめいてしまう俺も大概だとは思うけれど。それでも、やっぱり、悪いのは彼なのだ。そんなん、反則や。そんな言葉を耳元で囁くから、泣きたくなるのは今度は別の理由で。
 
 
(生まれて来てくれて、俺に出会ってくれて、ありがとう)
 
 
 
 
 
にとってにとっての特別
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いまさらすぎますがおめでとうございました、なお話でした。
 
120430




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