例えば俺が彼の失われた右目になってあげると言えたなら、それはきっとハッピーエンドだ。しかし現実はそうじゃなかった。そんな綺麗な感情は抱けない。もっと、ずっと、汚くて。もっと、ずっと、切実だった。
 
「左目は、俺が欲しいなあ」
 
なんでもない会話をするみたいに、思ったことをそのまま口に出せば目の前の彼は不思議そうに首を傾げた。それもそのはず。唐突に俺が口に出した何の脈絡もない言葉。それを理解出来る方がおかしいのだ。だから俺は、そのまま。思ったことを思ったままに口にする。何が良いとか悪いとか、そんなことはどうだって良かった。それぐらいにどうしようもなく切実だったのだ。
 
右目は、橘君が最期だから。千歳は右目にその親友を思わざるを得ない。それが本人達にとってどんな記憶であるにしろ、第三者の俺には関係無かった。だからこそ、なのだ。良くも悪くもそれは彼を縛り付ける理由になる。だから、羨ましかった。だから、妬ましかった。彼の最期の記憶であることが。彼と最期まで生きられることが。だから、だから。
 
「よかよ」
 
左目が欲しい。そうやって言う俺に、彼は優しく笑いかけた。俺の手を掴んで、そのまま自分の左目に覆うように被せる。「俺の頭のてっぺんから足の指先まで。全部全部白石にあげる。」そうやって笑うから。全身に込み上げるもの、それは簡単に溢れ出した。きっとそれは彼の笑顔の代わりなんだろうなって、思って。しかしそんな俺を彼は優しく包み込むようにするから。全部とか、嘘じゃないんやなって実感。そうすれば、溢れるものは余計に止まらない。
 
だからきっとこれも、そうなのだ。ちょっとだけ歪で不器用な、ハッピーエンド。そうやって、なれって、ひたすらに願う。切実。
 
 
 
(俺の全ては彼にあげるから、彼の全ては俺にください、かみさま)
 
 
 
 
 
 
 
欲しいのは君の
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
依存みたいな独占欲みたいな。
 
120409




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -