手放しで喜ぶことが出来なくなった。それは退化か進化なのか、分からないけれど。純粋だったあの頃とはもう違う。きっとそんな感傷に、浸ってみたい年頃なのだ。全てを疑ってかかる、疑心暗鬼とは違うけど。でも、全ての言葉を鵜呑みに出来る程に、優しい人間ではなかったのだ。
 
「好き」
 
必死に振り絞るようしにて紡がれた言葉に、用意していたみたいな答えで返す。ごめんのう、って。すると、みるみるうちに赤く染まり始めた頬は、照れや恥じらいなんて可愛らしいものからではなかったようだ。急に伸びた腕、触れる手の平。ばちんっと、大きな音と共に頬に受けたのは衝撃だった。痛い。なんてそんなことを思いながらもただただ突っ立っていれば、何やら理不尽な罵倒を浴びせさせられる。思わせぶりな態度をしてって、勘違いも甚だしい。あんたなんか大嫌いよ、なんて。でもやっぱり、その程度だったんじゃろ、って。だから今回は正解。
 
 
「やーぎゅ、湿布持っとらん?」
「流石に湿布は持ち歩いてません…って仁王君、また何かなさったんですか」
「ひどいのう、まるで俺に非があるみたいに言うんじゃな」
 
勝手に告白されて、ふられて。別にそれに落ち込んだ訳でも何でも無いのだけれど、甘えるみたいな声を出して彼に近寄った。きっと彼という存在にもたれかかって、安心したかったのだろう。なんて自分自身を分析してみる。馬鹿じゃなあ、なんて思いながら。
 
そんなことを考えていれば、彼は一瞬姿を消した。そして急に伸びた腕、触れるのはひんやりと冷たいハンカチ。だから思わず笑みを零せば、彼は呆れたみたいな表情を浮かべる。でも本当にそうだとは思わないから、笑ったままでいれば顔の顔も優しく崩れた。
 
「柳生は俺のこと好き?」
「好きですよ」
「でも、大嫌い?」
「そんなことありません」
 
唐突な質問に、彼はちょっとだけ不思議そうな顔をしながらも律儀に答える。だからもう、それだけで良かった。それで充分、満足。
 
手放しで喜べないなんて言いながらも、こと彼に関することだけは別だったから。簡単に信じて、縋って、本当にそうであれって願って。結局、俺はそれぐらいどうしようもなく彼が好きなのだ。多分、それだけの話。彼だけで良いんだって。きっと、それだけの事。
 
 
 
 
 
じゅうかぜろ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
特別か特別じゃないか。シンプルに二択。
 
120408




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