「すっごい風やなあ、まるで嵐や」
 
カーテンの隙間から外を覗けば、思わず感嘆の声が漏れる。それぐらい今日の天気はひどかった。昼間だと言うのに暗くなりはじめた空。まだ降り出してはいないものの、雨が降るのも時間の問題だろう。びゅんびゅんと吹き荒れる風に、がたがたと窓は揺れる。誰かの手から放れた傘が、宙を舞っていた。
 
「ここまでひどいと逆にテンション上がらん?」
「気持ちは分からんでもないけど、今から帰ることを考えたら憂鬱やなあ」
 
はあっと俺がわざとらしくため息を吐けば、彼は楽しげにははっと笑った。だからひどい奴ーなんて拗ねたみたいにして言う。みたいに、なんて。本当は本当にちょっとだけ拗ねているんだけど。それに彼が気付く必要は無いから、何でもない風にしてコートを羽織った。
 
 
帰れなくなればええのに、って。
 
 
「今なんか言った?」
「いや、なーんも」
「ふーん」
 
なんでもないみたいな会話を、なんでもないみたいにする。今日だっていつもと何も変わらない。そんな日常の一コマで、あるはずなのだ。彼の家に遊びに来て、元々泊まる予定ではないから、適当な時間になったら帰る。たったそれだけのこと。じゃあ、なんて言葉と共に部屋を出る。玄関まで送るでーなんて追いかける彼には、おおきにって笑った。そして玄関のドアノブに手をかけて、止まるから、非日常。
 
「雨、強くて、帰れんなあ」
「……せなやあ」
「もうちょっと、居た方がええかもなあ」
 
なんなら泊まれば良いと思うで、なんて。なんて、白々しい台詞だろうか。そう思えば笑いが漏れた。なんや、どうしようもなく不器用やなあって。馬鹿やなあって。お互い。
 
「せやなあ」
 
そう言って笑ったまま彼を向けば、ちょっとだけ困ったみたいな照れたみたいな表情を浮かべるから。それをきっかけに、二人で大笑い。そんな行為に意味なんてものは存在しないのだけれど。なんとなく安堵して、安堵したから。一瞬だけ交わった手は、導くみたいにして離れた。本当はなんだって、どうだって。そんな感情はきっと春だからって。俺はまた、窓から覗く外に春を見た。嵐やなあって。
 
 
 
 
 
の嵐
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
感情はどうあれ行動では一線を越えられない二人。
 
120405




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -