「俺、尊敬してるんですよ。白石部長のこと」
 
机の前に座って、やや下向きに。日誌でも書くような体勢で、でもそれは見せかけで、座っていたら聞こえる声。だからそちらを振り返るように顔を上げるが、声の主は別にこちらを見てなどは居なかった。着替える手を止めないで言葉だけ、つらつら。だからそれは向くなと言う意思表示だと解釈し、俺は机に置いたシャーペンを再び握る。
 
 
「出来ないことも全部、出来るみたいにやってのけて、その裏はみせない。そういうとことか。本当は笑いとかそんなんあれなのに、そういうどうでもええとこまで努力して、やってのけるとことか」
 
「ないから。俺には、ないから。そういうとこ、純粋に、全部すごいなって。俺もあなたみたいになれたらええのにって」
 
「思う。自分で思ってるよりもずっと、ずっと、俺は」
 
 
淡々と彼が繋ぐ言葉。それは、じわじわと俺の中へと染み込んでいくようだった。ああ、なんだか、無性に。泣きたくなる。そんなときもあるものだ。別に特別優しい声色なわけではなくて、むしろ普段と何も変わったところなんかはなくて。だからこそのことだった。ああ、どうしよう。なんてそれは戸惑いじゃなくて、ただ、嬉しい。そういう風に自分に価値を見出してくれている人が居るということが。それが彼であることが。だから堪えきれなくなって、向く。彼の視線は未だ俺を捉えはしなかったけれど。
 
「財前、もう一回」
「……忘れたっすわ」
 
促すように、強請るように、口にする。そんな言葉に彼はようやく視線を合わせた。そして一瞬、小さく笑みを浮かべる。しかしそれはすぐにいつものものに戻って、彼もすぐに部室から出て行ってしまった。でも、それで、良かった。だから、良かった。見られなくて。でも居てくれて、気付いてくれて。今度こそ本当にどうしようもなくなってしまった俺は思わず机の上に突っ伏してしまったけれど、そんな俺を支配するのは今は違うどうしようもなさだった。だから、送る。もう姿の見えない彼に視線を。ではなく感謝を。なんて。でも、多分こうやって。ああやって。俺は今までもこれからも救われて、いるから。俺は俺でいられるのだ。いきて、いけるのだ。
 
 
 
 
 
 
ほんとはね、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
たまにはへこむ白石くんとたまにはすなおな財前くん。
 
120402




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