説明を求められれば、それは驚くほどに簡単だった。降り止まない雨の中で一本の傘を共有。たったそれだけ。詳しく話したとしても、さほど複雑な事情があるわけではない。部活も終わり帰ろうとしていたところで雨が降り出した。元々予報でも降るという話だったから、それぞれ傘を開き学校を後にする。しかし彼だけは傘を持っていなかったのだ。走れば大丈夫だとは口にするが、その程度の雨ではない。だから、私の傘に二人で入った。いや、入っている。たったそれだけの話。
 
 
「すまんのう、柳生。」
「いいえ、あなたが風邪を引いたら困りますし。」
「そんなこと言うてる柳生の方が雨に濡れとるよ。傘貸しんしゃい。」
 
雨は昼間よりも幾分も気温を下げた。そのせいもあってか、心なしか彼は饒舌。しかしそんな彼からの提案はあっさりと却下する。私から言った以上相手に傘を持たせるなんて出来ないし、彼に持たせてしまえば彼が自身の側を濡れるようにと仕向けることは目に見えていたからである。
私の断りの言葉に小さく頬を膨らませながらも、彼は案外早く諦めた。代わりにもっとぎゅっと、縮まったのは二人の距離だ。こっちの方が濡れんじゃろ、って。いつもよりずっと近くで響く彼の声が心地好い。どうしようもなく。
思わず手を伸ばして触れたくなる。そう思い一瞬見れば、伸びたのは彼の腕の方だった。傘を持つ私の手へと、持たない彼が絡める。
 
「どうしたんですか、仁王君」
「よう言うのう。そないな目で見といて」
 
そう言って、笑う。私から言わせればそんな彼の方がよっぽどそういう目をしているのだが、私も同じなのだろうか。彼の瞳をのぞき込んだって、そこまでは分からなかった。でも、そういう気持ちがあったのは本当。
 
「噂を立てられますよ。」
「大丈夫、相合い傘の時点でそこはもうクリアしちょる。」
「それは仁王君が傘を忘れたから仕方なくです。」
「じゃあこれだって、お前さんの傘が小さいから仕方なくじゃ。」
 
楽しげに交わす会話。それはどれも言い訳。でも、簡単なことだった。理由さえあれば人は大概のことが出来てしまうのだ。普段ならば人目のつくところでこんなことはしない。でも今は、理由があるから。雨なんだから仕方ない。止むを得ない距離なのだ。なんて、そんなの誰が聞くわけでもないのに。
 
「そうですね。」
「そうじゃよ。」
 
そうやって、相槌打って、言い訳。明らかにおかしい行為に理由を付けて正当化。理解されるとは思わないし、理解して欲しいと願う訳ではないけれど、たった一つで良いのだ。表向きに理由を作るだけで、許されないことが許された気になる。なんだか、どうしようもない。どうしようもないけれど、どうしようもなく。
 
 
雨が上がればおしまい。それは使えない言い訳になる。でも今はまだ、上がらないから。降り止まない雨の中で一本の傘を共有。たったそれだけ。それ以上でも以下でもない単純な話。行為と思考は必ずしも一致するものではなく、大概どこかが違うのだ。それで普通、当たり前。単純な行為の裏にどれだけ複雑な思考が渦巻いていようとも、そんなことは関係なかった。
 
 
 
 
 
言い作り
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
普段からべたべたするのはにおで、やるときにはやるのがやぎゅのイメージで。
 
100427




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