俺にとっての彼は光だった。眩い程の光。それと同じように、彼には彼の光があることは知っていた。それが俺なんかじゃないってことも、当然。
 
 
「そろそろ放しいや」
「嫌って、言ったら?」
「何のつもりなん」
 
ロッカーを壁にして腕との隙間に彼を閉じ込める。そして彼の背中にぴたりと自身の体を合わせて、肩に顎を乗せた。しかしそれに彼は動揺などせずあくまで冷静な様子で返すから、なんとなく腹立たしいみたいな、もどかしいみたいな。そんな気持ちに襲われたから、彼の体に腕を回し距離を詰める。無くなれば、良いのにって。
 
「俺じゃ駄目」
「……おん」
「謙也君じゃなきゃ、」
「あかんよ」
 
俺がそっと吐き出す言葉に、彼は多少躊躇をしながらも言葉を繋ぐ。今までに彼とこの手の話をしたことは無い。そんなことは一度も存在しなかった。でも、知っていた。だから、どうしても、口にせずにはいられなかったのだ。彼がそうであるように、俺もそうであるから。言ったら、逃げられないって、直感。
 
「同じ、ばい。白石が謙也君を必要とするのと同じ。それぐらい俺には白石が必要。」
 
顔色なんて見えないから、それを良いことに俺は続ける。彼の考えなんて、思いなんて、知らないみたいな振りをして。一方的に理不尽に、俺のそれだけを押し付けた。いなきゃ、いきてけない。なんて。同じだって口にして、彼がそれを無碍に出来ないように包囲する。同じなら、彼だってそうなのに。そうだと知っているからこそ、優しさに付け込むのだ。
 
ぎゅっと抱き締める腕に力を込めれば、ため息一つを引き換えに彼は俺の腕にそっと手を重ねた。それは辛いなあ。なんて、自分もそうだからこそ言えるのに、そんなことは感じさせないように、他人事みたいに口にする。まるでただをこねる子供をあやすかの如く優しく優しく。
 
 
そんなときに扉を開けて現れる人物は、彼の思い人で。一瞬びくりと体を動かしてから彼がそちらを向くから、そんなことは見ずとも伝わった。
 
「あれ、白石と千歳、何して……」
 
その人物はたどたどしく口にして、そこで止める。見つかった方ではなくて、見つけた方が動揺。まあ、それもそうだろう。部室でいきなり抱き合う男二人を見つけたら、そうであって当たり前なのだ。でも俺には、全部、全部、分かっての計算だから。来るんだろうなって思って、来たら何か変わるかもしれないって思って、終われって願って。ああおれはなんてさいていなおとこなんだろうっておもうのに、ほんとうに。
 
「俺たち付き合ってんねん」
 
今まで言わなくてごめんなあ。小春とユウジの例があるからって言ったって、やっぱ口にし辛くて。驚かすつもりは無かったんや。でも、誰にも言わんで。お願い。
 
なんて、つらつら。彼は笑ってそう言うから、俺はどうすることも出来なくなった。話を合わせる、なんて、そんな器用な真似。彼を傷付けるような真似。なんて、今更でしか無いけれど、そんなことを思ってしまってしょうがない。だから涙の流れる顔を俺はあげることが出来なかったのだ。なのに勝手に事は進んで行くみたいで、ばたんと扉は再び閉じるから。
 
「勝手なこと言ってごめんな。こんな俺で良いんなら、よろしゅう」
 
ぽんぽんっと彼の手が優しく俺の頭を撫でるから。もうどうしようもなくなる。本当は誰より幸せにならなきゃいけないのは彼なのに、きっとずっとこうやって、彼は与え続けるのだろうって。知っていて、知っていたからこそだけれども、涙は止まらなかった。ごめんなさい。そう確かに思うのに、回した腕を放すことの出来ない俺はどうしようもないぐらいに臆病者だったのだ。
 
 
失ったら、もう何も見えないから。はなせない、はなしたくない。大切な光。それを俺は他でもない彼の幸福と引き換えに手に入れたのだ。
 
 
 
 
 
 
犠牲はする君の幸福
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ひたすらにひたむきに一方通行。
 
120326




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