「宗教みたいや」
 
不意に後ろから聞こえた声に振り返れば、そこには後輩の姿があった。今日は試合形式での練習の為、一時的に手が空く人が何人か生まれる。審判の仕事さえ回ってこなければ、自主練をしに行くなり試合を見学しているなりその時間は自由だった。だから後者を選択してベンチに腰掛けた俺と、彼も多分同じ状況なのだろう。隣失礼します。なんて言葉と共に、彼はベンチに腰を降ろした。丁度一人分の距離感。
 
「……宗教?」
「白石部長っすわ」
 
彼が座るなり気にかかった言葉を問う。そうすれば、返ってきたのは今目の前で試合を繰り広げる男の名前だった。しかし名前を聞いたところで何かが分かる訳ではない。むしろ謎は深まった。白石と宗教がどうかしたのだろうか。
 
「そのまんまの意味ですよ。部長は、宗教やなあって」
 
どうにか、してくれそうな気がしてしまう。縋れば彼は何事も成し遂げてくれるんじゃないかって、錯覚。出来ないことなどないかのように。そんな風な言葉を繋ぐから、意外だと思うよりも納得してしまった。確かに白石にはそんな節がある。いや、白石に対するみんなのベクトルの向け方にはの間違いだ。今まさにそんな彼と試合を行う金髪の男だって、その中の一人だと言えるだろう。熱心な白石信者。
 
多分、手を伸ばせば白石はそれを払えない。見捨てないでいてくれる。そうやって生きてきた。そうやって生きている。そんな根拠のない確信が浮かぶ、から。
 
「可哀想な人ですよね。俺らと何も変わらんのに。こうやって、どんどん、勝手に、信者が増えてくんやから」
 
そう言った彼の視線は確かに一度俺を捉える。先程までの会話は全て目の前の試合に、白石に注ぎながら行われていたと言うのに。ああ、これは、釘を刺された。そう思いながらも笑みで返せば、彼は露骨に嫌そうな表情を一瞬。
 
「千歳先輩まで止めて下さいよ」
「……嫉妬?」
「だったら良かったんですがね、」
 
その言葉の続きを言う前に、彼は立ち上がりラケットを取りに向かった。次はようやく試合らしい。しかし続きは聞かずとも分かったし、それを前提で彼は口にしたのだろう。だからこれは俺に対しての忠告で、彼の彼自身への戒めでもあったのかもしれない、なんて。それでもきっと一番は違う。白石の為、なんだろうけれど。そう思ってまだ試合の続くコートをぼんやり見つめれば、一瞬交わる、から。きっと俺も同じなのだ。もう既に、残念ながら。
 
 
 
 
 
論者の信論
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
恋愛感情じゃなくて、友情でもなくて、尊敬と言うか崇拝と言うか、宗教的な何かかなって。
 
120304




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