綺麗だなって思ったから、綺麗だねって言った。そうしたら彼女は照れながらも嬉しそうに笑った。そんな願望があったわけじゃないけど、やっぱりいざ着るとなると幸せな気持ちになるもんだねえ、なんて。魔法がかかったみたい、なんて。その魔法は、ウエディングドレスがじゃなくて着せてくれたあの人がかけているのに。まあ、だからどうしたってわけじゃないから、言わないけど。そうだねえなんて同じように間の抜けた調子で返せば、彼女はまた笑った。
 
「ブーケ、投げてあげる」
「何、私にも早く結婚しろって?」
「まさか、」
 
唐突な彼女の発言に自嘲するように返せば、彼女はそれに対してなんでもない調子で言葉を繋ぐ。昔からそうだった。皮肉とか、嫌みとか、お世辞とか。そう言った言葉だって彼女の前では何でもないただの文字になるのだ。私が私をどう思おうが、私が彼女をどう思おうが、彼女は決してぶれない。しかし、繋ぐ言葉は途切れる。ちょっとだけ切ない顔をするから、ああきっと続きは言わせちゃいけないんだな。そう思った私は、彼女の髪に咲く花に優しく触れた。
 
「幸せだね、佐藤」
 
そうでないことは知っているのに、そうであれって思うから、私はそのまま口にする。案の定彼女は「もう佐藤じゃないよ」と訂正をするが、その顔にはもう先程の切なさは残っていなかった。だから、まあ、よしとする。
 
 
きっと世界なんてそんなもので、一番に望む道を歩むことはなかなかに困難だ。だから二番目に望む道を歩めることだって充分に幸せなはず。少なくとも今彼女の笑みを見ている私は幸せだから。そうであるべき、なのだ。
 
 
「幸せになってよね、」
 
 
ふわりと彼女の頭を優しく撫でれば細くなる目。その日、私は初めて彼女を名前で呼んだのだ。
 
 
 
 
 
では無いに幸せにしてもらう話
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そういう関係だった女の子二人の片方の結婚式を迎えて。
 
120301




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