「なあ、千歳、才気っちゅうんは何でも見えるん?」
 
彼は唐突にそんなことを問う。どうしてかと不思議に思いながらも「だいたいは」なんて曖昧に答えれば、彼は頷き距離を縮めた。隣に居たはずの彼が、もっとずっと近くなる。
 
「じゃあ俺がこれから何をしようとしてるのかも、分かるやろ?」
 
俺の足の上に跨って、手は俺の胸元へと当てて、彼は笑う。その笑みがあまりにも切なかったから、俺はどうすることも出来なく彼を見つめた。「分かっとうよ。」なんてしばらくしてからようやく口を開けば、彼は心底不満そうな表情を浮かべる。
 
「分かってたらなんでそない余裕そうなん?お前男とそういうことしたいん?」
「……白石が何もしないってことぐらい、分かるばい」
 
口にすることを少しだけ躊躇った。けれども結局形にした。そんな俺の言葉に、彼は顔を真っ赤にする。そして力を込めて俺の胸倉を掴んだ。怒りに任せて、みたいな。しかしそれは怒りと言うよりは羞恥心の方が近いのだろうと思う。偽った自分自身に対して、それを見破られたことに対して。だからつり上がった眉はすぐに下がる。ぽろぽろ、ぽろぽろ。彼の手に落ちた涙は、伝って俺の服に染みを作った。
 
「既成事実」
 
ぽろぽろと涙を流したままで、彼が口にしたのはそんな単語だった。既成事実が欲しかった。作ってしまえばそれまでだから。だから、だから。いっぱいいっぱいになりながらも、視線だけはそらさない。だからそっと手を伸ばして頬に触れてやる。涙は拭わないで、すくうみたいに。
 
「なして止めたと?」
「……千歳に、嫌われとうなかった…」
 
涙の中で絞り出された言葉。それを聞いて手を頭に移し、撫でるように動かした。そうすれば、溢れる、溢れる。まるで子どもみたいに声をあげて泣く彼は、そのまま俺の胸に頭を埋めた。涙は大きく染みを作る。確かに残す。
 
ああ、一体どこで間違ったのだろう。どこでなにがどうなってしまったのだろうか。そんなことを考えてはみるけれど、案外どうでも良いことのようにも思えた。別にどこでも、なんでも。一つだけ、分かることがある。この腕の中で泣きじゃくる彼を手放したくないと思う。今はそれで充分なのだ。きっとそれだけで、よか。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
両思いだが何なんだかな二人になりました。
 
120201




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