知らなかった。なんて、どれだけ卑怯な言葉だろうか。知らなかったから許される。知らなかったからしょうがない。そんなことがあるはずが、無いのに。だから、思わず口をついた言葉に反吐が出た。最悪、最低、そんな風に自分に向けて罵倒を浴びせる。何の意味もないけれど。それぐらい、分かっているけれど。そうでもしなきゃ今俺は何をしたらいいのかって、現実逃避。
 
「知らなかった、ですか」
 
俺の言葉を繰り返す彼に、それは余計に襲う。だからといって、言わないで繰り返さないでお前の口からそれを出さないで、なんて、そんな我が儘は言えなかった。だって、俺が悪い。だから俺はただ小さく頷く。そうすることしか出来なかった。頷いたまま、視線を落として反らす。卑怯だって思うけれど。そんな自分には嫌悪しか抱けないけれど。それでもきっとこれが最善、なのに。
 
「宍戸さんの嘘吐き」
「…嘘じゃねーよ」
 
そうやって震えたみたいな声が届くから、思わず顔を上げてしまった。そうっと、恐る恐る。本当はしたくないけれど、そうするしか選択肢は無かったのだ。確認をするだけで良かった。でも、真っ直ぐ俺の瞳を捉える彼にそれは反らせなくなる。嫌だって、駄目だって、内側では叫ぶのに。警報が、鳴るのに。
 
「それならそんな泣きそうな顔、しないで下さいよ」
 
ほら、ほら。言われた言葉にどうしようもなくなる。そんなの分かり切っていたことだった。でも、そうだから、どうしようもなかった。だって知ってたし。彼が俺を好きなことぐらい。俺が彼を好きなことぐらい。でも、駄目なんだって。だから知らなかったって。
 
知っていたら、全て認めなければいけなくなってしまう。全ての行動、全ての言葉の裏に隠れたその気持ち。それは絶対にしてはいけないことだから。俺が彼を縛るなんて、絶対にしてはいけないことだから。知らねえよ。そうやって何度も繰り返して、首を振る。なのに伸びる腕が触れるから、縋らずにいられない自分に、また。
 
知ってるって一言で、きっと過去のそれは幸せな日々になる。しかしその一言は、未来のそれを保証してはくれない。だから、だから。彼の腕の中でも、流れるものには気付かないふりをする。そうして、知らないを繰り返す。そうすることでしか、幸せにはなれないんだって
 
 
 
 
 
 
独り善がりの福論
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
両思いなのに形にするのが怖い臆病な宍戸さんみたいな珍しい感じに。
 
120121




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