時折、彼の反応が鈍るときがある。それは知らなければ気付かない程度の変化だけれど、こういうとき、やっぱりそうなんやなあと思う。彼の視力は、まだ回復仕切ってはいない。いや、まだなんて言ってはみるけれど、本当に回復するものなのかどうかも分からなかった。もしかしたらこの先良くなることなんてなくて、あるところからは回復どころか後退するしかなくて、なんてこれは俺の想像だった。口にしたことはない勝手な被害妄想。
 
「これは?」
 
ひらひらと彼の顔の近くで指を揺らす。いち、に、さん。そんな俺の行動に彼は素直に従い答えを口にした。しかしやっぱり見えない場所はあるらしく、見えないものを必死に見ようとする彼になんだか胸がきゅーっとする。見えないんやなあ、って。だから、わざと死角のある側に自分の顔がいくようにして彼を抱き締めた。手を回して、ぎゅっと。なんだか、どうしようもなくなったから。そうすれば彼は俺のされるがままに、じっと静止をする。けれども不意に動き出したかと思えば、手は俺の頭の上。
 
「全く見えない訳じゃなかよ」
 
優しく優しく、彼は繋いで手を動かす。だから、泣かないで欲しい。なんて繋がれた言葉に初めて俺は自分が泣いていることに気付かされる。なんでやろ。なんて理由は明白で、悲しいのだ。悲しいから、涙が溢れるのだ。俺がどんなに思ったって、願ったって、彼の両の目が俺をとらえることはない。俺はこんなにも彼のことを、彼のことだけを、見つめていると言うのに。それならいっそ、俺を最後に何も見えなくなってしまえば良いのではないだろうか。なんてひどい願望、ひどい欲望だ。でもこのままじゃ、一生片思い。そう思えば溢れるものは余計にだった。
 
 
涙で揺れる、霞む。そんな中で確実なのは温度だけで、俺は離れまいとするようにもっとぎゅっと。ああ、最初から一つだったら良かったのに。一つになれたら良かったのに。
 
 
 
 
 
 
 
かたおもい
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
新年明けましたが相変わらずネガティブな白石くん。
 
120108




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