自分でも馬鹿なことをしている自覚はあった。わざわざこんな日の、こんな時間に、家を出ているなんて。当然のことだけれど、冬の真夜中、寒くないわけが無かった。それなりには着込んでいたけれど、それでも甘く見ていたようだ。だから丁度目に入ったコンビニにカイロでも買おうかと思い立ち寄る。あくまで目的は、自分が温まるため、だから。荷物が増えたのは偶然。そうやって主張する。
 
 
「いらっしゃい、白石」
「…なんで、おるん」
 
目的地に着いて、チャイムを鳴らすか否かで迷う。来てはしまったものの、もう年末だ。彼が帰省してしまいここに居ない可能性は充分にあった。むしろそうだと思いながらも来てしまったから、馬鹿なことをしていると思っていたのだ。なのに俺が躊躇している間にドアが開く。本来ならいきなり来た俺の存在に驚くのは彼の方だろう。なのに、彼が居ることに驚くのは俺の方。間抜けな話だとは思うけれど、彼が居るなんて想像も出来なかった。だって、俺にとっての彼の認識はそうなのだ。
 
もう帰ってるかと思った。素直にそう伝えれば、彼は分かっていたとでも言うみたいに笑う。それが少し気に入らない、けれど。その予定だった、ばってん、白石に会いたかったから今日の夕方に変えたばい。なんて、そんな風に笑う彼を前にしたらどうでも良くなった。そのぐらい単純、なのだ。ああ、なんだかなあ。こんなん嫌やなあ。なんて思いながらも、それに気付かれたくないから続ける言葉を探す。そして視線を下げた先にコンビニの袋の存在を思い出しそのまま彼に突き付けた。
 
「ケーキ」
 
たまたまコンビニに寄ったら目に入ったから。だから安物やけど。なんて、言い訳をするにしてももう少し上手な言葉の選び方があっただろうに。そうは思ったけれど、そういう風に自分に言い聞かせていたから、それ以外の言葉は出てこなかった。そんな俺のばればれの言い訳を前に、彼はにっこりと笑うから。別に理由なんて、言葉なんて、なんでもええんやなあ。そうやって静かに思う。そうすれば、引き寄せられるのは袋を持った腕ごと。距離が縮まると同時に家の中へと引き込まれ、ドアは閉まる。
 
「ケーキ、崩れる」
「うん」
「せっかく買うてきたんやから、無駄にしたら許さんで」
「ばってん、俺が居なかったらどうするつもりだったと?」
「そん時は、ドアの前に置いてったるわ」
「……それこそ無駄ばい」
「無駄やない、俺を置いてった罰や」
 
腕の中にしっかりとおさめられて、目を合わせたままそんなくだらない会話を交わす。俺の主張に彼はちょっとだけ苦笑しながらも、ちゃんと手に持つ袋は避けて改めて抱き締めなおした。彼の大きな体に包まれる。あったかい。なんて思いながらもそれ以上に幸せ、なんて。そんな言葉を俺よりも先に彼が紡ぐから、思わず頬がゆるむのを感じた。同じ、なんやなって。だけどそれも隠すように、彼の胸へと頭を埋める。来年も、その次の年も、これからずっとずっと、こう出来たら幸せでいられるのに。なんて有り得ない未来に思いを馳せる。でも、有り得ないから馳せるのだ。
 
長い時間、沈黙も含めた全てを味わうように彼に抱かれていた。そんな中不意に彼は俺の指を絡め取って、冷え切ったそれを温めるかのように握る。冷たい、なんて、誰の為に。そう思っていれば、触れる唇。ああ、こうやって俺は簡単に絆されてしまうんやなあ。なんてぼうっとする意識の中で、本来の自分の目的を思い出す。これを忘れちゃ何のためにこんな時間に家を出てきたのか分からない。だから、絡め取られたそれを外して俺はようやく口を開く。
 
 
「誕生日おめでとう、千歳」
 
 
 
 
 
 
君とつくる幸福
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
誕生日を迎えた彼に真夜中に会いに行く白石。千歳おめでとう!
 
111231




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