「俺、宍戸に嫌われてるのかな」
 
部室の中は、さんひくいち。俺が来ると同時に出て行った宍戸を除いて、鳳と二人切りだった。まだ着替え途中だと言っても、殆ど済んでいるはずの彼を置いて出て行った宍戸。だから冗談みたいな口調で、でも本心も混ぜて、笑って言ってみせる。そうすれば納得したみたいな表情を浮かべ、彼は笑う。似てますね、なんて。意味が分からない。
 
彼は時折ふわふわと掴めない言葉を放つ。しかし彼の言葉の殆どは真っ直ぐ。失礼にあたるだろう言葉もそのまま口にするから、分からないそれも分かりやすいそれも、きっと根本的には全て同じなのだとは思う。しかしそうは思ったって、分からないものは分からなかった。だから首を傾げて続きを求めれば、また、笑う。
 
「二人とも、相手の綺麗さばっかり羨んで、自分のことには気付いて無いんです」
 
だから、似ています。そうやって彼は続けた。全く違うのものを同じものさしではかるなんて出来ないのに、無理矢理そうして正しい答えを求められないでいる。美しく咲き誇る花も、日が暮れて赤く染まり始めた空も、どちらも綺麗なことに変わりはないのに。相手に向けたものさしで、自分をもはかろうとするからいけないのだ。そのせいで、自分の良さを正しく評価出来ないでいるんです。なんて。
 
ああ、なんと恥ずかしいことを言ってのけるのだろうか、この後輩は。そう思う俺の顔は、どう言うわけか笑みを作っていたらしい。呆れたような、照れるような、何をたたえたものかは自分でも分からなかったけれど。そんな俺を見て本日一番の笑みを見せた彼に、何それ、なんて笑ってしまった。だってそっちの笑顔の方が素敵ですよ。なんて、どんな口説き文句。
 
「二人とももっと自分を甘やかしてあげて良いんですよ」
 
もう着替えを終えていた彼は、俺に断り先に部室を後にする。だから、にひくいち。でもなんとなく、そうではなくて。やられたなあ、なんて思う。こんな風に言われて、俺は一体どんな接し方をしたら良いのだろうか。なんて考えて、笑う。馳せる。そしてようやく準備を終えれば、俺も追うように部室を出た。きっと、それは、いちひくいちではない世界。
 
 
 
 
 
きれいなきみ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
滝さんと宍戸さんの関係を模索中です。
 
111230




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