最悪のタイミングだと消沈する。後に最悪なのは自分の方だと自覚する。だって、その通り、なのだ。俺は彼らに何も言い返せない。それどころか、黙らせることすら出来ないのだ。ちくちくと、痛むのはあと時と同じ。あの時の痛み。なんで俺なんかが。それは誰よりも、自分自身が思っていた。
 
「なんで日吉先輩なんかが部長なんだろうな。」
「な!何の結果も残せ無かった奴が跡部部長の代わりになんてなれんのかよ。」
「本当にその通りだよなー」
 
壁を隔てて聞こえる嘲笑。彼らの言っていることは全て正論である。だからそんなことを口にするなとは言えなかったし、思いもしなかった。けれど、陰口を叩くのなら本人に聞かれないようにしろとだけ。部活が始まる前の更衣室で、なんて誰に聞かれてもおかしくはないだろう。直接口にする勇気がないのなら、せめて見つからないようには出来ないのだろうか。そんな風に思ったって、壁に背中を預けたまま何もしない自分も、結局同じなのだ。そうやって、溜め息。
 
でも、俺に、何が出来る。あの時何も出来なかった俺に、返すことの出来る言葉なんて無いだろう。もしも自分が勝つことが出来ていたなら、なんて。もしも自分じゃない誰かが戦っていたなら、なんて。何度も何度も考えた。嫌になるぐらいに考えた。でも、それでもどうしようもないから。今さらどれだけ悔やもうともどうすることも出来ないから、せめて、って。
 
 
「君たちに日吉の何が分かるって言うの?」
 
 
がしゃんっとロッカーが閉まる音。それと共に聞こえた声に、驚いたのは俺も同じだった。別に変わった音ではなくて、普通にロッカーを閉めただけの音のはず、なのに。一瞬で変わった空気に息をのむ。鳳先輩、と慌てて声を上げる後輩たちに、続くのはまた彼の言葉だった。
 
「日吉がどれだけのものを背負ってるかも知らないくせに、よくそんな風に言えるよね。それに日吉は日吉だよ。跡部さんの代わりなんかじゃないから。」
 
らしくない。淡々と彼の口から繋がれる言葉。それはいつもの温和な姿からは想像出来ないぐらいに、冷たく感じた。けれども「早く行かなきゃ遅刻しちゃうよ」なんて続けたそれはいつもの彼と何も変わらなくて、そんな事実に余計に困惑。だって知ってる、けど。冷たくなんかないんだって分かってるけど、分かってるから。零れ落ちそうになるものを拭って、顔を上げるしかなかった。
 
 
慌ただしく開いた扉と共に、壁から背中を離す。後一歩、もう一歩。歩みを止めない理由は充分過ぎるぐらいに存在した。だから今はもう少しだけ。上げた顔で空を仰いで、太陽の眩しさに目を細める。
 
 
 
 
 
 
曇天つける
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部長になった日吉くんの背負うものの多さを重さを、一番に分かって支えてあげられるポジションは鳳くんかなと。
 
111218




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