かさかさの唇にそっと触れる。この時期は少し油断しただけで、この有り様だった。だからリップクリームは手放せない。女々しいと言われるかもしれないが、日頃のケアが何よりも大切なのだ。なのに、入っているはずのポケットにそれがない。忘れたのかも。なんて思い、小さく溜め息が漏れた。今日は千歳の家へと泊まりに来ている。彼がそんなものを持っているはずがないので、買いに行かねばならないではないか。そういう、溜め息。
 
「どきゃんしたと?」
「リップ、忘れたからちょっとそこで買うてくるわ」
 
寒いから本当は外に出たくなんてない。けれどもかさかさの唇をこのままにしておくのも嫌だった。だから上着を羽織って近くのコンビニへと行こうとすれば、声がかかる。そして、声の主は俺との距離を縮めた。なんや、千歳も行くんか。なんて思ったのはほんの一瞬で、すぐに違う目的があるのだと言うことに気付く。気付かされる。がっしりと肩を掴んだ手。もう片方、空いた方の手は俺の顎に触れてくいっと持ち上げる。ああ、嫌な予感しかしない。ほら、やっぱり、べろり。なんて。
 
 
「……あんな、舐めると、余計ひどくなるんやで」
「なして?濡らせば良いんじゃなかと?」
「濡らせばって……蒸発するときに水分が奪われるやろ。だから逆効果、余計に荒れるんや」
「じゃあ、ずっと乾かないようにすればよかね」
 
 
彼の予測不能な、奇想天外な行動にも、随分耐性が出来たものである。だからあくまで冷静に言い聞かせるように言葉を繋ぐ。なのに、それすらを上回る行動へ移ろうとする彼に、一瞬怯む。笑顔へと動揺する。千歳、と。制止の為に呼ぼうとした名前は、彼自身の行動によって遮られた。飲み込まれた。舐めて、そのまま侵入してきた舌に酸素が奪われる。ああ、全くもう、どうして。
 
「唇触ってる白石がエロいのがいけなか」
 
なんて、そうやって意味の分からない主張をする彼には溜め息を吐きたくなる。けれど、それはかなわなかった。貪るように這う舌に、気付けば、唾液まみれ。そんな行為に段々と上手く力が入らなくなるのは、全部全部、足りない酸素が原因だろうと思う。そう思いたかった。とりあえず、今日はもうリップなんて買いに行けないんやろうな。なんてぼうっとした意識の中でどうでも良いことを思って、一瞬唇に指を伸ばす。そうしてその手を彼の首へと伸ばせば、そのまま、暗転。
 
 
 
 
 
 
触れる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
唇に触れるのはえろい。乾燥した唇はえろい。
 
111210




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