怖い夢をみた。現実では絶対起こり得ないような、そんな酷い夢だ。絶対離れないって。置いては行かないって。一生一緒にいる、なんて。そう何度も繰り返すのだ。伸ばした腕の中に俺を閉じ込めて、優しく優しく。そんな言葉に行動に、俺が笑顔で頷けば彼も同じ。にこり。
 
ああ、なんて悪夢。
 
目を開いたらそんな世界は広がっていない。それは分かり切っていることだった。こちら側にも幸福はある。しかしそれは続かなくて、永遠なんて約束は絶対にくれない。それなら瞼の裏の、一瞬の中の永遠の方がよっぼど良い。そう思わずにはいられなかった。
 
だから、躊躇する。目を開くことを躊躇った。夢が夢のまま終わる現実を、知っているのに臨めない。知っているからこそ望めなかった。でもこのままこうしてたってしょうがないことぐらいは、分かっているから。そしてそれは今すぐの話ではないことも、ちゃんと、分かっているから。閉じた瞳を開けば、確かに存在。そういうのって本当に、嫌んなる。
 
「……千歳」
 
目の前の彼の名を、口に出してみたって応えは返ってこない。代わりにすやすやと、寝息。無防備にもほどがあるんやないの。なんて自分のことを棚に上げて思って、沈む。こんなん、なのに。一緒に寝て、朝まで共にするような仲なのに、約束なんて一つも残してはくれない関係なのか。そうやって改めて突き付けられる事実に沈む。全部全部、今さらな話だけど。
 
たった一言。夢の中で発した言葉のどれか一つをすくい上げてくれるだけで良い。それだけで、きっと俺は幸せになれる。どうしようもない幸福を得られるんだ。そうやって思って、思ったら溢れそうになるものに、瞳を閉じた。そうしてまた、甘い甘い悪夢に浸る。そうすることしか出来ないから、おやすみ。
 
 
 
 
 
優しい悪でおやすみなさい
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いつも通りのネガティブ白石くん。
 
111110




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