嫌われてはいないと思う。むしろちょっとしたことで顔を赤らめるぐらいには、彼は俺を意識してくれている。と言うか、そもそも、俺と彼とは恋人同士なのである。世間一般の感覚からは多少ずれるかもしれないけれど、お互いにお互いを思っていることは確かなのだ。なのに、唇を重ねたり、手を握ることは許しても、抱き締められることを彼は拒んだ。今まではなんとなく上手に誤魔化していたけれど、いい加減耐えられなくなった俺が無理強いをすれば、それはあからさまに。
 
「いや、そう言うのは、ええから」
「なんで」
「それは、別に………丁重にお断りさせていただきます。」
 
両腕を真っ直ぐに伸ばして、彼は標準語でそう言う。頑なに俺を近付けようとしないそんな動作は、いっそ、不自然だった。どうして、ここまで嫌がるのだろうか。別に俺たちはそれ以上のことだってしている。そんな関係なのだ。だから、納得いかない。そう思う俺の方が自然だろう。なんで、なんで、なんて。子供がするみたいに縋れば、彼は顔は伏せたまま、手は伸ばしたまま。ぎゅっと指に力を入れて俺の胸のあたりの布を握った。
 
「だって、甘え方とか、知らんもん。どうしたらええか、分からん…」
 
そう言って、静止。きっと伏せたままの顔は真っ赤に染まっているのだろう。なんて想像するのは容易い。けれど、だからどうって。可愛くて仕方無くって。つまりはそういう衝動が起きることはごくごく自然なことなんだって思うわけで。腕を伸ばし彼の肩を掴み、引き寄せる。
 
そんな俺の行動に慌てて顔を上げた彼は、離れようと必死の抵抗を示す。しかしそれもほんの一瞬のことだった。肩を掴んで離さない俺の手に、諦めたみたいに力が抜ける。そうして迷いながらも、俺の胸へと頭をうずめた。ぎゅっと握ったままの服はそのまま。だから、もういいだろうって。思って、両腕で彼を包む。そうすれば、恐る恐る体重を俺に預ける彼。むぞらしか。なんて考えるより早くにそんな言葉が口からこぼれた。だって、なんでって、たまらない。辿々しくも甘えようとしてくれる彼は、どうしようもなくかわいい。いとおしい。
 
「もしかして、今までも、それで?」
「……悪いんか」
 
俺の腕にすっぽりとおさまったままおとなしくなった彼に問えば、普段からは考えられないぐらいに小さく弱々しい声で返答。そんな全てが愛しくってしょうがなくって。優しく頭を撫でてやれば、すりすりとすり寄る。そんな、全てがいちいち俺のツボを的確に突くから。未だ理性を保っている自分を褒めてやりたいと思う。本当に。
 
ああ、いとしいとか、いつくしいとか、全部、全部。どんなに言葉を探したって並べたって、今のこの感情を述べるに相応しい言葉は無いのだろうと思う。足りない。それぐらい、どうしようもない。どうしようもないぐらいに彼だけを思う。だから、きっと、ずっと。絶対、永遠。彼を手離さない為の算段を、頭の中に巡らせる。
 
 
 
 
 
 
この手の中し君
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
たまには甘いお話を。
 
111105




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