いくら俺より一回りも二回りも大きな体を持つ彼だって、いきなりの出来事には対応出来ないみたいだった。俺の全体重をかけて、がたん。今日は珍しく誰も居ない俺の家には二人切り。そんな中、リビングで寛いだ様子で座る彼を押し倒した。今日何があったとか、じゃなくて。何かはずっと、あったのだ。
 
「白石?」
 
不思議そうな顔で俺を見上げる彼を、俺はただじっと見た。手は床に縫いつけるみたいにして、押さえつける。そうすれば彼は抵抗も何もしないまま、俺の言葉を待っていた。それがどうしてか、無性に、腹立たしい。真っ黒な両の目は、確かに俺をとらえるのに。本当はきっともっとずっと。そんな妄想に支配される。だから、駄目。
 
こんな状況なのに、何も行動を起こさない彼にどうしようもない怒りを感じて、同時に泣きたくなるのだ。どうしても、悲しい。どうしようもなく、悲しい。だから彼を押し倒して、のしかかったままで、視界は揺れる。いや、本当は最初からそうだったのだ。悲しくて、揺れて、耐えられなくなった。だから、今。
 
「話しても、自分には一生理解出来ないことや」
「うん」 
 
どれだけ続いたか分からない静寂の後の言葉。彼を否定すれば、それは簡単に肯定される。なんで、そうなん。どうして。なんて言葉は続けられなくて、代わりに涙だけが形になった。こうだから、駄目なんだ。こんなんだから、俺と千歳は。そう思うことは間違いじゃなくて、嘘でも妄想でもなくて、ただそこにある事実だった。きっとどんなに俺が望んだって、縋ったって、彼を俺に繋いで、この場所に縫いつけておくことなんて、出来ないのだ。
 
するりと簡単に俺の手から抜け出した彼に、溢れたものは止まらない。それが優しく俺の涙に触れようが、拭おうが、消えることは無かった。好きなんだ、どうしようもなく。離したくないんだ、どうしても。でもきっと俺のそんな気持ちは1パーセントも彼に届くことはないのだろう。分からないんやろ、どうせ。この涙が染みて、少しでも俺の思いが伝わったらええのに。なんて。訳も分からなくなって泣き続ける俺を彼は優しく見つめるから、やっぱ、だめ。
 
 
 
 
 
 
一方通ベクトル
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「リビングで、泣きそうになってのし掛かるちとくら」一応両思いだけど、不安でしょうがない白石。
 
101006




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