「やっと終わったばい…」
「おー、お疲れさん」
 
ぐいーっと普段から大きな体をめいいっぱいに伸ばしたかと思うと、彼はばたんとベッドに倒れ込んだ。普段ならそんなんしたらベッドが壊れるやろ、だとか。休むんは片付け終わってからにせえ、だとか。文句の一つや二つを投げつけてやるところだか、今回だけは彼の頑張りに免じて大目にみてやる。思えば、彼は丸一日近く眠っていない。まあ原因は彼にあるのだから、自業自得と言ってしまえばそれまでなのだけれど。
 
「いくらなんでもこん量はひどかね」
「あんだけサボってんのにこれだけで済むんやから、感謝しなきゃあかんやろ」
「はは、それもそうったい」
 
机に積まれた課題をとんとんっと軽く揃えて、俺は彼を向く。これは学校をサボりがちな彼への、教師陣からの救いの手だった。普通に考えて、あれだけの欠席日数を叩き出しておけば普通は卒業なんて出来る筈がない。だからそんな彼を救済するために、学校側から定期的に課題が与えられているのだ。しかし授業に出ていなければ解ける筈もなく、結局毎回俺が手を貸している。別に理解が出来ないのではなく、単に知識が無いだけの彼に勉強を教えることはさほど難しくは無い。無いのだけれど、甘いなあって思う。どうしようもなく甘い。
 
「人のベッドで先に休むなんて良い御身分やないか。俺も疲れてるんやけど?」
 
ベッドを大きな体で占領して、瞳を閉じようとする彼に言う。立ち上がって見下ろして、皮肉っぽい口調で。なのに彼はそんなことは全く気にしない様子で、にこりと笑って俺を見た。そうして、ありがとう、って。素直にお礼の言葉なんて口にするから、ああ、ずるい。しょうがないから、俺もばたん。
 
「なんね、白石。誘っちょる?」
「阿呆、誘ってなんかおらんわ」
 
隣の部屋には妹だって居る。それは彼だって知っていることだから、わざわざそう続けはしなかったけれど。無言のままで彼の体の上に、重なるように倒れ込んだ。理由なんてそんなの、疲れた、とか。それだけで充分なんだと思う。全身に彼。全身で彼。そういえば、こうして彼を上から見るのは珍しいことかもしれない。そう思えば笑みがこぼれたのは、きっと足りない睡眠が悪いのだろう。彼の胸に耳を当てて、とくんとくんとリズムを刻む心臓の音を聴く。あれ、もしかして、俺。今相当幸せなのかもしれない。そんなことを考えて彼の顔を見れば、彼も笑うから。ああ、きっと、そう。間違いなくそうだった。
 
「幸せ?」
「…せやなあ」
 
にっこりと笑えば彼も同じだけそれを返すから。たまには、こんな日が、あったって良い。彼の上で彼を感じながらそれ以上はしない。それ以上なんてない。とくんとくんと心地好いリズムに、俺はそっと目を閉じる。
 
 
 
 
 
拍数に傾く
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ちとくらほのぼの」どちらかと言えばあまあまになった感じがします。千歳の上に乗る白石のイラストにきゅんきゅんしたのでそこから。
 
110921




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