がたん、ごとん。電車に揺られる。殆ど人の居ないがらがらの車内に、黒い学ランは些か不釣り合いな気がした。しかも、男二人。これが男女の二人組ならば、学校をサボってデートだとか、親の反対を振り切っての駆け落ちだとか。そんな背景を妄想だって出来ただろうに。でも、二人とも性別は男なのだ。気を許した友達みたいな、そんな親しげな雰囲気はきっと無い。なのに黙って肩を並べる。だから、おかしい。そう思われていると思う俺の見解は、間違ってはいないだろう。
 
「千歳」
「ん、なんね」
「そらこっちの台詞や。無理矢理連れてきといてどないつもりや」
「どっか行こうと思ったけん。そうしたら白石が俺の手ば握ったとよ。やけん握り返しただけばい」
 
視線も合わさないで問えば、彼は予想してたみたいにすらすらと言葉を並べた。間違ってはいない、けれども、それは間違いだ。学校があると言うのにふらふらと駅の改札に向かう彼の手を握ったのは、確かに俺の方である。けれどもそんな俺の手を握り返して引っ張ったのは彼だった。だから、違う。俺は不可抗力でこうなってしまったわけで、俺の意志でこうして車内に居るわけではない。
 
「……自分、何処に行くつもりなんや」
「別になんも考えてなか」
「は」
 
彼の言葉に思わずばっと彼を向けば、彼はにっこりと笑った。何も考えてない、って。無理矢理連れてきておいて、それは無いんじゃないだろうか。仮にも今日は学校だ。と言っても長期休みが明けたばかりの今は大した授業も無いのだが、それでも学校をサボってここに居ることには間違いないのに。何も考えてない、って。呆れた。呆れて溜め息すら出ない俺に彼は未だに笑顔を向けているから。俺は思わず手を伸ばし、彼の頬を抓る。
 
「まさかやけど、俺が今日駅前来んの予想してたのとちゃうよな?」
「えへへ」
「えへへやないわ。お前みたいな大男がそんなんしたってちっとも可愛くあらへん」
 
ぎゅうっと指に込める力を強める。そうすれば痛い痛いと彼は顔を歪めて、引き離そうと俺の手を掴んだ。そうして掴んだままでまたにこりと笑う。どうしてこうも簡単に、彼は表情を変えるのだろうか。なんて思うがその視線をそらせない自分に、今度こそ溜め息。
 
「白石と一日二人切りで過ごしてみたかっただけばい」
 
笑顔を浮かべたまま、掴んだ手を口元に運ぶ。ちゅっと音を立てて手の甲にキス。ああ、なんでこいつは普通に、こんな、キザなことするのだろうか。ちゅーか、ここは車内や。公共の場や。そうやって言ってやりたいのに、突然のことに口の回らない自分が情けない。同じ車両には誰も居ないけれど、そういう問題ではないだろう。
 
「……千歳の阿呆」
「ひどかー」
 
段々と顔に集まる熱を感じる。一度だけ睨むように彼を見るが、それにはさほど効果はないようだった。だからすぐに視線はそらす。そうして、目を閉じて、ことんと首を傾けた。彼の肩に乗せるみたいに。寝ているみたいに。あーあ、学校サボって俺は一体何をしているのだろうか。何処に向かうかも分からないまま、何を。そんなことを考えてはみるけれど、結局、本当は、そんなのどうでも良いことだって思ってるんやろうな。多分。彼も、俺も。だからもういっそ、知らない振りをする。気付かない振りをする。全部、全部。目を閉じて、なるがまま、流れに身を任せようか。ぎゅっと握られた手もそのままで。がたん、ごとん。
 
 
 
 
 
かわがれ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
電車の中で、笑いながら手の甲にキスをするちとくら。比較的ぶらぶな二人になったような気がします。
 
110921




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -