見捨てられても仕方無い。そういうことをしているって自覚はあった。でも、絶対に見捨てられない。そんな自信があった。根拠は、彼だから。白石だから。
 
「千歳、まだおったんか」
「白石のことを待ってたばい」
 
部活後の自主練を終え、部室に入ってきた彼を笑顔で迎える。そうすれば彼は首にかけたタオルで汗を拭きながら、少しだけ笑みを作った。そうして椅子に座る俺の元へと歩み寄って、額にデコピン。
 
「調子良いこと言って、また寝とっただけやろ?」
 
別に咎めるような言い方では無い。どちらかと言えばしてやったり、所謂どや顔というやつだ。やっぱりばれてるったいね。彼には嘘は通用しない。いつだって見透かされているのだ。それは少なくとも好意があってこそ成り立っているものだと思う。いや、間違い無くそうなのだ。比重は違うかもしれないが、好意を寄せられていると感じることが出来るほどにはそれが存在する。それは、幸せと言う一言で片付けるのは違う。けれども手離せない。手離さない。
 
「白石、」
 
練習に着ていたユニフォームは脱ぎ、ワイシャツを羽織ったばかりの彼を後ろから抱き締める。剥き出しになった首筋に顔をうめて舌を這わせれば、彼の体は敏感に反応した。けれども変わらずに冷静なままで、彼は俺を向く。そうして、呆れたみたいに笑った。泣きそうな顔。諦めたみたいな顔。でも、それでもきっと彼は俺を見捨てることなんで出来ないのだ。だって、俺が、そうさせない。絶対に、はなさないから。
 
「白石、白石、白石、」
 
何度も何度も呼んで、ぎゅっと腕に力を込めて、重ねる、絡める。拒絶はしない。むしろ優しく微笑む、から。どこかずっと奥の方がつーんとするような感覚に陥った。けれど、その理由も、名前もいらない。白石だけ居れば、それで充分なのだ。
 
 
 
 
 
他はいらない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白石じゃなくて千歳を重くしようとした結果。
 
110910




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