彼と歩いていると高確率で猫に遭遇する。すりすりと体を寄せる猫に、なでなでと優しく手を動かす彼。見慣れてしまった光景だけれど、見慣れてしまったからこそ気にかかる。いなくなるって、分かっとるんかな。猫は。分かっているからすり寄って、匂いをつけて、繋ぎ止めようとしているのだろうか。そこんとこ、どうなん。そうやってアーモンド形の瞳を見つめれば、ぷいっとそれは反らされた。
 
自由気ままな生き方は、両者とも似ていると思う。けれども通じる部分はあっても、根本は大きく違う。彼は同じ地に縛られない。猫は土地に生きると言うから、その点が全く違うと言えるだろう。それとも、彼の土地はここでは無いのか。だからなのか。恐らく、後者が正解。残念ながら。
 
名残惜しそうにする彼を無理矢理猫から引き離して、狭い部屋に二人で戻る。元々飲み物を買いに出ていただけだった。さっさと畳に腰を降ろしてしまう彼を横目に、温くなってしまわぬようにと冷蔵庫にそれらを詰めてから後を追う。
手を伸ばせば届く程度の距離に居る彼へとさらに近付いて、猫みたいにすり寄った。体を押し付けて匂いを付ける。そんな先程の動作を真似る。
 
「なんね、白石。猫さんみたいばい。」
「……にゃー」
 
猫みたいって、彼の言葉にちょっとだけ迷いながらも鳴いて返してみせる。そうすれば楽しそうに彼は笑うから、伸ばされた指を舐めた。ぺろぺろと舌を這わせて口に含む。「白石っ…」そうやって驚くような、不思議そうな声が漏れたかと思うとふわりと俺の体は浮いた。同年代から見たって決して小さい方では無いし、運動をしているのだから太っては居なくともがりがりに痩せている訳でもない。そんな俺を簡単に持ち上げてしまうのは、一般的な成人男性と比べても劣りこそしなければ勝るような体格を持つ彼だからか。それとも、もっと単純に、千歳だからか。
 
足の上に座らせられれば当たり前のように距離はもっともっと近くなる。引き寄せられて目前に迫った彼の顔。その頭にがぶり。飛び出した鼻に優しく歯を当てた。それには流石に驚いたみたいで目を見開くから、代わりに俺は笑顔を作る。にやり、って。そうして求められたキスはおあずけに、彼の肩へと頭をうずめた。耳元で囁いて、待っているのはたった一回の頷きで構わない。だから、なあ。
 
 
「お前が思っとる以上に、猫は寂しがり屋なんやで。置いていきなんてしてみい、死んでまうんやからな」
 
 
 
 
 
 
ねこ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ちとくらと猫のお話は一度は書かなければなって思って。
 
110909




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