否応なく進む時間を感じる。薄くなったカレンダーに、朝晩の風の冷たさに。あれだけ汗を流した日々は終わった。夏はもう、終わったのだ。あんなに駆け回ったコートも、もう俺たちのものでは無い。開け放った窓へと一瞬視線を送るが、座ったままではコートの様子までは確認出来なかった。代わりに秋を感じさせる風が、まだ露わになったままの肌に触れる。ちょっとだけ、寒い。
 
「もうすぐ衣替えか」
「せやなあ」
 
最後に冬服に袖を通したのは、もう数ヶ月前になるだろう。そして夏服に袖を通すのはもうすぐ最後になるのだ。そんな当たり前のことを思えば、なんとなく感慨深いと言うか何と言うか。
どうなんだろう。目の前の彼は、どう思っているのだろうか。そう思って視線を送ってはみるものの、彼は視線を上げなかった。参考書を追ったまま、黙々とペンを走らせる。
伏せることでより長さを主張する睫毛。潤いを絶やさない唇。男だって分かっていたって、綺麗と形容するにふさわしい容姿の持ち主だと思う。なんて、目の前の彼を考察。なんて、阿呆か。そうセルフ突っ込みを入れたところで声がかかる。
 
「何や謙也、惚れたか」
「おん?」
「さっきからずっと見てるやろ。」
 
にこっと整った顔が俺を向いて笑顔を見せる。そんな動作には不覚にもどきっとして、口から出たのは阿呆、なんて言葉。否定にも肯定にもならないそれに彼は笑うから、つられて俺も笑う。ああ、こんななんでもない時間もそう長くは無いのかもしれない。半袖の彼と秋の訪れを知らせる風に、笑顔の裏で考える。当たり前になるのは難しいのに、当たり前じゃなくなるのは簡単なのだ。そう思えば急にこみ上げるものを感じて、俺は思わず顔を伏せた。
 
「謙也、」
 
そんな俺に彼は何かを言おうとして、止めた。閉ざした口が続けようとした言葉は分からないが、代わりに暖かいものを感じる。優しく、ぽんぽんっと頭に触れるは彼の手。それを思わずぎゅっと掴めば、掴み返されるから。そこから先はどうして良いか分からなくなってしまった。今はもう、寒くはなかった、けれど。代わりにどうしようもない感情が支配する。
 
後もう少し時が経てば、コートだけではない。この教室だって、学校だって、全部俺たちのものではなくなってしまう。それは分かり切ったことであり、彼だって理解しているはずだ。でも、叶うなら、続けば良い。終わらないままであれば良い。そうやってぎゅっと手に力を込める。窓から吹き込む風が、冷たく肌を撫でた。
 
 
 
 
 
わくば
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あまはしさんに蔵謙!のはずでしたがかけざん要素が薄いです。そして蔵謙蔵かも。
 
110908




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