どうしてこうなったかとか、別にそんなことは今さらどうでも良いことなのだと思う。ふざけたやり取りの、たわいもない会話の、延長線。俺の甥っ子の話だったか、彼の弟の話だったか。曖昧だけれど、そんなところからの発展だったのかもしれない。
 
「お湯かけますよ」
「おん」
 
シャワーを手に持ち彼の髪へとお湯をかける。黄色いふわふわの髪がぺったりと濡れたのを確認して、シャンプーを手に取った。人の髪を洗うのに慣れている訳ではないが、甥っ子の面倒を見ていて何度か経験はしている。だから、やっぱり、同年代の中では比較的慣れている方ではあるのかもしれない。なんてぼうっと考えながらに、彼の髪に指を通す。白い泡と共に、ふわふわとシャンプーの甘い香りが漂った。気持ちよさそうに目を細めて彼は笑うから、泣きたくなる。そんな矛盾。
 
「なんや光、思っとったより上手いな。気持ちええよ。」
「当然や。謙也さんよりは上手い自信があるって言うたやろ。」
 
俺の気なんて知らないで嬉しそうな声色で言う彼には、なんだか痛みを生じた。それがなんなんかは分からんけど。分かりたくもないけど。苛立ちにも似た感情から、今度は声もかけないで蛇口を捻る。突然かかるお湯へと、彼は慌てた様子で小さく声を漏らした。いきなりやから目に入ったやろ。なんてぎゅっと目を閉じて、痛い痛いと訴える。だから思いっきりシャワーを彼の顔に向けて、そのままがくんっ。彼の生身の肩へと頭を乗せれば、ぎゃあっと色気の無い悲鳴がバスルームに響いた。予想通りの反応には思わず笑みがこぼれる。涙がこぼれた。
 
「いきなり何するんや!!」
「茹だっちゃって、頭、くらくらするんです。」
「何言ってるんや、光は、」
 
彼は言いかけて、言いかけのままで止めた。出しっぱなしにされたシャワーの音だけが響く。どんどんと濡れて重くなる衣服が気持ち悪かった。でも生のまま、裸の彼に触れる部分はちょっとだけ心地好い。温度が、彼。生々しく彼を感じる、そこだけがぞくぞくするぐらいにリアルだった。一生、ない。俺には彼を一生繋ぎ止めることも、縛り付けることも出来ないんだ。そうやって思わせる。どうしようもないぐらいに現実を突き付けられる。
 
きゅっとシャワーが止められたのを合図に、俺はびしょびしょのままで立ち上がってドアを開き乾いたタオルを引き寄せた。そして彼が口を開くのも気にとめないで、頭から包み込んで視界を塞ぐ。ぎゅっと一瞬だけ腕の中に収めて、すぐにぐしゃぐしゃ。乱暴に髪を拭いて手放した。はい、終わりましたよ。なんていつもの調子で言ってみせるが、どうしてか彼の方が泣きそうな表情を浮かべて離れない。
 
「濡れたんで脱ぎたいんですが、覗きっすか?」
「………阿呆。」
 
迷って、何でもない振りをして、繋げれば、彼もそうすることにしたらしい。いつもの調子で笑ってみせて言った。まだ完全には拭き取ってない水を滴らせながら。零れる雫。ああ、なんでだろう。なんでこうなんだろう。こうしてるんだろう。こうなるんだろう。ふわふわと浮かんでは消える。消えては浮かぶ。彼が背を向けドアを閉めると同時に蛇口を捻れば溢れ出す。止まらない、止まらない。でも、もう一度捻れば簡単に止まってしまうそれ。俺の、それも、そうだったら。それぐらい簡単だったら、良かったんだ。本当に。
 
 
 
 
 
蛇口るぐらいに簡単なことだったら
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
えろくないお風呂話でも書こうと思ったらちょっと方向性を見誤って光→→←謙ぐらいの両片思いに。
 
110831




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -