いないな、そう思ってふらっと廊下に出た。もう夜ではあるが、まだ規則に反する時間ではない。だから呑気にチョコレートを片手に持ったまま。地図を借りれば早かったかな。なんて廊下に足を踏み出してから考えるが、そんな心配は無用だったようだ。
 
「こんなとこにいたの、シリウス。」
 
廊下に出てすぐ、探していた人物は見つかった。入り口の目の前に座る。ただでさえ目立つ存在だって言うのに、こんなところに居るのはいかがなものだろうか。そうは思うがこんな時間、今。寮内が盛り上がって居る中、わざわざ廊下を歩く生徒はあまり居ないようだった。少なくとも僕たち二人の近くには居ない。だから、まあ、良いのか。なんて思って彼の隣へと腰をおろす。そんな僕を彼は一瞬ちらりと見るが、すぐに視線はそらされた。
 
「何、拗ねてんの?」
「……拗ねてない。」
 
覗き込むようにして聞けば、彼は露骨に顔をそむけた。分かり易いなあって思って、思わず笑う。笑えば彼はわざとらしく睨んでみせるから、ぽんぽんっと頭を叩いた。そして優しく髪を撫でる。
 
「シリウスはたまに自虐的過ぎるきらいがあるよね。それとも、君の親友はそれほどまでに信用がないの?」
 
そうして諭すように、子供に言い聞かせるみたいに、言ってみせる。そうすれば彼は言葉に詰まって、気まずそうに視線を泳がせた。まあ、いつも通り。結局そうなんだから。見慣れてしまった風景にはため息一つ出なかった。
 
彼がこんなところにいる、理由は簡単。たった一つ。彼の親友が自分以外と盛り上がっていて、自分はおざなりにされてしまったから。聞かなくったってどうせそんなところなのだ。それを勝手に悲観的な解釈をして。それで。別に親友には、ジェームズにはそんなつもりは全く無いのに。見ていて分かる、ただの被害妄想。隣に居る僕には分かるのに、当事者には分からないのがおかしいけれど、それだってもう。今さら、だからね。
 
「まあまあ、チョコレートでも食べなよ。甘いものは良いよ。」
 
にっこりと笑って待つ。どうせ来るのは分かってるから。微かに聞こえる声に笑う。答えなんて待たないで、彼の口に入れるチョコレート。驚いた彼にまた笑い、彼を呼ぶ声にも笑って、平和だなぁって。幸せだなぁって。チョコレートがいつも甘くて美味しいぐらいに当たり前の、そんな日常に浸るのだ。
 
 
 
 
 
ふつうのまいにち
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『「夜の廊下」で登場人物が「髪を撫でる」、「チョコレート」という単語を使ったお話』恋愛要素はなしに仲良しな感じで。
 
100829




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