もうすっかり日が暮れた今、部員は殆ど残っていない。校内にも数えるほどの人数しか居ないだろうと言う時間だった。なのに俺は今一人ではなくて二人切り。すぐ横には千歳の姿があった。着替えはもう済ませ、後はガントレットをして包帯を巻くだけ。そんな俺をじっと見つめ、彼は感心したように言う。
 
「白石はほんなこつ白かね」
「普段から包帯巻いとるからな。ここはまず焼けへん。」
 
彼は言いながら俺の腕を掴む。そんな唐突な行動に驚きはしたものの、あくまで何でもないみたいな振る舞いで俺は返した。こいつのこんな行動に、いちいち振り回されとったらあかん。そうやって自分に言い聞かせて、俺を見つめる彼を見つめ返す。
 
「綺麗ばい」
 
にこりと笑みを作ったまま、そのまま、がぶり。ふっと彼の唇が俺の腕に触れたかと思えば、それは直ぐに痛みに変わった。綺麗。その言葉は否定をすれば良いのか。それとも突っ込むべきところなのか。そんなことを考えていた俺の思考回路はストップ。痛い、痛かった。
 
「っ…、なんでその流れで噛むんや!」
 
ばっと、反応は遅れたものの俺は手を引こうとする。しかしそれはかなわず。掴まれた腕はそのまま。それならばせめて言葉では反抗しようと口を開いた。だって、意味が、分からん。なのに彼はちょっと考えて、笑顔で返すから。俺の口からは溜め息。
 
「所有印?」
 
…阿呆か。そうやって口は動かした。けれどもそれがきちんと形になった自信は無かった。掴まれた腕に、残る赤い歯形をじっと見つめる。ああ、無性に、なんだか。じわりと瞳に膜が張るのが分かったけれど、それはどうしようも無かった。とうとうそれが零れれば、彼は痛かったのかと心配げに覗き込む。だから頷く。そうや、全部目の前の彼が、千歳が、悪い。痛い。どうしようもなく痛むのは、全部、全部。自分が悪いんやろ。
 
(こんなもん残したって、居なくなるのは千歳のくせに)
 
 
 
 
 
 
痛むのは君が残すそれ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
舐めるとか噛むとかの話をしてたので。両思いだけどもそれ未満。
 
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