「一緒に帰りませんか、宍戸さん。」
 
いつも殆ど一緒だと言うのに、時々彼はそれを口にする。わざわざ、律儀に。それは彼らしいと言えばらしいのだけれど、同時に違和感も感じざるを得なかった。そんな、今さら。でも、違和感を感じたからと言って、何があったと言うわけではない。わけではないから。俺はまた二つ返事に頷いて、彼と肩を並べるのだ。
 
暑いなぁ、なんて。突き刺さるような日差しに至極単純なことを思う。むしろ、それしか思わなかった。考えられなかった。それぐらいに、暑い。くらくら、目眩を起こしそうなぐらいの暑さ。
 
「ちょっと回り道にはなりますが、美味しいジェラート屋さんがありましたよね。」
 
そういえばの接続詞で繋がれた言葉。それは暑さでぼうっとした俺の思考にも届いた。彼の話すそれは、確かずっと前に珍しく跡部たちと一緒に行った店である。値段は少々張るがそれだけの味だったな、なんて思い出して、良いなって。顔に出していたつもりは無かったのに、俺の顔を見た彼はにこりと笑った。決まりですね、って分かってるみたいに。それがちょっと照れ臭い。だから隠すために、視線は逸らして前を歩く。確か、この先、歩道橋。
 
一段、二段、一歩ずつ歩みを進める。この暑さの中階段を上がるのはなかなかに辛かった。しかしここを越えなければ目的地には辿り着かない。以前来たときは夕方だったと思うが、昼の歩道橋はここまで変わるのだろうか。くらくら。上がりきったところで、ふらりと目眩。ああ、まずい。
 
 
「宍戸さん」
 
 
ふわり、浮いた体はたったの一瞬だった。完全に落ちた。そう思って目を閉じたのに、開いた瞳がとらえたのは変わらない世界。あれ。不思議に思っていれば、ぎゅっと背中に感じる熱に気付く。ああ、長太郎か。理解して振り返ろうとするが、なんとなく気付いて躊躇われる。抱き留めると言うよりも抱きしめると言うそれ。どうしたものだろうか。そう考えて、静止。
 
ああ、くらくら、する。また目眩を起こしそうなそれは、本当に暑さ故なのだろうか。考えることを放棄して、しまいたい。けれど、この状態を続ける訳にもいかないから。振り返って、向かい合って、彼の笑みにどうしようもなくなる。
 
 
 
 
 
目眩
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『「昼の歩道橋」で登場人物が「抱きしめる」、「目眩」という単語を使ったお話』鳳→←宍みたいな、何故だか両思い未満になりました…。一応為さんに。
 
110815




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