もう夜も深い頃、不意に携帯が鳴った。たったワンコール。しかし表示された名前に、一瞬で俺は反応。その一回の呼び出しに応えた。用件なんて、分かっている。だからどこにいるかだけを問えば、川、と一言。それだけが返ってきた。
 
柄にも無く急いで、でもそんな様子を彼には見せたくなんかなくて。声をかける前に数回、深呼吸。そうしてようやく整った呼吸と共に彼の名を呼んだ。ただし、どくんどくんと平常時よりも煩く鳴る心臓はそのまま。
 
「よう来てくれたな、光。」
「呼び出しといて何言いはりますの、謙也さん。」
 
そうやって彼はにこりと笑顔を浮かべた。その声は機械越しに聞いた声よりも、よっぽど明るい。それはそう、不自然なまでに。つよがるなよ。ばればれなのに。なんて思うけれど、それは口にはしなかった。ただ黙って距離を詰めて彼の隣に立つ。どちらも口を開かない、深夜の河川敷は煩いぐらいに静かだ。しかしそれを破ったのは、彼の方だった。好きやった。そうやって、零す、みたいに。
 
「どうしよもなく好きやったんや。今さら、気付いたって遅いのに。」
 
誰を、それを彼は語らない。でもそんなの語らなくたって明白だった。知ってますよ、それぐらい。ずっと見てましたから。あなたのことなら誰よりも知っとる。そんな感情は秘めたままで、頷くのは俺だった。頷けば彼は笑うから。隠して、笑うから。ぱんっと、俺は自身の手を叩く。
 
「謙也さん、俺が魔法かけたりますわ」
「……魔法?」
「だから、目、閉じて下さい。」
 
そんな俺の唐突な言葉に、彼は戸惑いながらも素直に従った。睫毛が伏せる。消えてしまいそうな全てを、触れてなぞって手に入れたい。そんな願望が無いわけではなかった。でも、でも。
 
「雨が降る魔法っすわ。」
 
前が見えないぐらい何も見えないぐらい、大雨。土砂降りの雨。そうやって笑えば彼はそっと目を開いた。ぽつり、ぽつり。段々と視界を塞ぐそれ。雨はすぐに降り出して簡単に全てを覆った。もう、何も、見えない。手を伸ばせばそうっと染み込む。塩辛くて、寂しくて、優しいそれ。
 
抱き締めることは出来ないから。今はどうしても、かなわないから。伸ばした腕は伸ばしたまま。雫だけをすくった。なのに、堪忍な。そうやって彼は謝るから。先回りをされてしまった言葉に、俺は頷くことしか出来ない。優しさに甘えてごめん、って。そんなの。優しさを利用してごめん、って。謝るのは俺の方なのに。
 
ぽつり、ぽつり。降り続ける雨は、気付けば俺の視界すらも覆っていた。何も、見えない。まだ、何も、見たくなかった。
 
 
 
 
 
 
ぽつり、ぽつり。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ついったーより『「深夜の河川敷」で登場人物が「つよがる」、「魔法」という単語を使ったお話』光謙のはずが光→謙→誰かになりましたが、あまはしさんに捧げます。
 
110809




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