もしも、もしも。繰り返すのは不毛な仮定の話だった。もしも俺が違う誰かだったら。もしも俺があの人だったら、この人だったら。それともあの子だったら。馬鹿みたいだとは思っても、その先に続きがあるかもしれないと思ったら、考えずにはいられなかった。願わずにはいられなかった。もう、どうしようもなくって。
 
「もしも俺が女の子だったら、柳生は俺を抱いてくれた?」
 
にこりと笑って何でもないみたいに言ってみる。でも、用件は明確。欲求は隠さなかった。ただ先程までの形式は止めただけで、延長線上に続けた。どうするじゃなくって、もっと明確に行為におよべるかどうか。たったそれだけの違いだ。
 
「……抱く、ですか」
「そのまんま、言葉のまんま、そうやって受け取ってくれてかまわんよ。」
 
今まではさらりと流していたはずの彼が止まった。意識をして、とかじゃあないけれど。真意を確かめるみたいにじっと俺を見つめた。こう言うときの彼の視線は痛い鋭い刺さるみたいに。しかしそんな視線すら心地好く感じてしまう俺は、きっともう、本当にどうしようもない。
 
わざと艶めかしく絡めてみる。指と指。俺と彼の。しかし彼から動揺は感じられない。むしろ。むしろ、動揺してるのは俺の方かもしれなかった。震える、震える。なんでとかじゃなくて、本当に意識せずに。なんにでもなれるはずなのに、一番なりたいものにはなれない。それが悲しい。きっとそういうこと。でも、感情に行動は追いつかなかった。張り付いた笑顔のまま涙。
 
「知りませんでした。あなたは案外そういうことを気になさるんですね。」
 
そう言う彼は微笑んで、拭って。違うぜよ。そうやって笑って見せたら瞳は閉じさせられた。ああ、やっぱり。無理なんだな、駄目なんだな、そうはならないんだな。そうやって思ってしまったら、ますます流れた。出さない言葉が感情が、全部、液体。彼の手が肌に触れて、思うは空想。もしも、もしも。
 
 
 
 
 
もしも×××××。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
82の日おめでとうのはずが誤った方向性。8→←←2ぐらいの距離感。
 
110802




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