「白石はなんばお願いしたと?」
 
手に持つ紙切れを楽しげに眺めながら、彼は聞いた。もう役目を終えた笹や短冊たちは、そんな彼の手から俺の手へと渡る。昨日は七夕。もう終わってしまった今日、それらは何の意味も持たなかった。だから後片付けをしている。なのに、そんな、今。
 
「ちゃんと書いてあったやろ、全国制覇や。」
「うん、それは知っとるばい」
 
それは、の言葉裏。それじゃないお願いがあるって勝手に決め付けている彼に、俺はただ笑みだけを返した。そういうのって、ずるいから。俺だって、知らないふりをする。知らないふりで返す。千歳は。そう聞いてしまいそうになって、そんな言葉はごくりと飲み込んだ。言葉にしてはいけない。形にしてはいけない。そんな直感。
 
「よし、片付けも終わったし」
 
帰るか。その言葉は形にしなきゃいけなかったのに、形にならなかったのは彼のせいだった。唇を塞がれたとか、そんな展開じゃない。俺の口は自由だ。でも、捕らえるから。彼の視線が俺を、捕らえるから。
 
(はなれませんように)
(いっしょう)

繰り返す。俺の中だけで完結していたはずのそれが、繰り返し、繰り返し。ああ、どうしたらいいんやろ。自分に問うてみたって、その答えは返って来なかった。だからどうしようもなくて、同じようにただ見つめていれば彼は何も言わないから。それは、無理って知ってるから。だって、雨だったから。
ひどいやつや。そう思う心は確かなのに、それは言葉にはならなかった。言葉になってしまったのはもうどうしようもないそれ。でも、形にすると彼は笑った。きらきら、きらきら。光ってもう、見えなかった。きらきら光ってゆらゆら揺れて、俺の視界はそれでいっぱいだ。睫に揺れた雫が、きらきら。きらきら。

 
「一生、千歳が俺から離れませんように」
 




ひかる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ちとくらだけどちと→←←くらみたいな。
 
110708




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